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分断の時代 芸術は希望 文学賞・イシグロさん

国際

2017年10月6日 夕刊

5日、ロンドンで、ノーベル文学賞受賞決定の心境を語るカズオ・イシグロさん(右)=沢田千秋撮影

 【ロンドン=沢田千秋】今年のノーベル文学賞受賞が決まった長崎市生まれの英国人小説家カズオ・イシグロさん(62)は五日夕、ロンドンの出版社でメディアの取材に答え、世界中で広がるポピュリズム、国家主義への憂慮を掲げ、文学など芸術を通じた人間性の回復を訴えた。また、昨年、文学賞を受賞した米国人歌手ボブ・ディランさん(76)への尊敬の念や妻への愛、日本人としてのアイデンティティーも明かした。

 「ポピュリスト、国家主義がはびこり、憂慮すべき時代だ。しかし希望は捨てていない。異なるグループを分断する時代だが、私たちには人間として感情を共有できる文学、映画、音楽などの芸術がある」。イシグロさんはメディアを前に身ぶり手ぶり、時にユーモアも交え、熱心に語った。

 若い頃、音楽を志したイシグロさん。ディランさんの存在は大きく、「ディランさんはずっと私の偉大なヒーロー」と打ち明け、「彼の言葉と作品がなければ、私は作家にならなかった。昨年の受賞でディランさんの作品だけでなく、彼の芸術の流儀まで評価されたのがうれしかった」と笑顔を見せた。また、スコットランド出身の最愛の妻が、受賞決定を聞き、美容院から舞い戻った話をうれしそうに披露。「彼女は作家になる前、ミュージシャンだった時からの私を知っている。だから、有名作家としてではなく、駆け出しの作家の時と同じ目線で私の作品を読んでくれる。時に厳しいが、私にとってとても重要なこと」と話した。

 イシグロさんは五歳から英国で育った。「日本語を話す日本人の親の元で育ったけど、私の日本語は限定的でいつもひどい」と言いながら、「私の文学的アイデンティティーの多くは日本という背景を持っている。両親はいずれ私を日本社会へ戻すつもりで育てていたので、たとえ英国の学校で英国の友達といても、私は違った世界観を持つことになった」と打ち明けた。その上で、「そのことが私に大きな影響を与えた。(作品の特徴である)激しい感情を穏やかな表層の下に隠すことを好むスタイルも、日本的スタイルが起源だろう」と自身を表した。

 

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