極右に流れる仏酪農家 作っても赤字…「EU政策の被害者」

国際

2017年4月21日 朝刊

今は使われていない搾乳器のある畜舎で、EUの農業政策への怒りをにじませるヤニック・ボダンさん=仏西部ジュイエで

 第一回投票が二十三日に迫るフランス大統領選で、国民に渦巻く欧州連合(EU)への反感と不満が、極右勢力の台頭につながっている現実が浮き彫りになっている。既成の保守政党の強固な地盤だった酪農業者の間でも極右に支持が流れる。農業大国フランスで今、何が起きているのか。「異変」の現場を取材した。 (渡辺泰之、仏西部ジュイエで、写真も)

 「ここで何度、首をつろうと思ったか…」

 観光地で有名なモンサンミシェルにほど近いジュイエ村。搾乳器が備えられた、がらんどうの畜舎でヤニック・ボダンさん(41)は唇をかんだ。牛乳の生産者だったが、価格低落の影響で事業継続が困難になり、昨夏に廃業。八十頭いた乳牛はすべて手放した。

 父親から乳牛を引き継ぎ、事業を拡大。畜舎やトラクター、搾乳器など多額の投資を行った。しかし、牛乳価格の下落に加え、EUが二〇一五年、供給過剰を防ぐ目的で実施してきた生産調整を撤廃。それがボダンさんら小規模農家を直撃した。経費の高騰で、作っても作っても赤字が出る状態になり、行き詰まった。

 「私たちはEUの政策と自由競争の被害者だ」。手元に残ったのは五十万ユーロ(六千万円)の借金だった。

 酪農や農業を取り巻く厳しい状況は、大統領選を巡る従来の政治風景をも一変させている。

 保守色が強い農業地域は伝統的に共和党の票田だ。前回一二年の大統領選ではサルコジ前大統領が敗れたものの、農業者の約44%の票を獲得した。

 しかし、ルモンド紙によると、今回の選挙では激変。前回、農業者の得票率が19・5%にとどまった極右のルペン氏が農業者の支持率35%を集めてトップに立ち、共和党のフィヨン元首相は20%と大きく水をあけられている。EUの政策への批判や既存政治の無策を厳しく攻撃するルペン氏の主張が、広く農業者にも浸透している。

 「(EU本部がある)ブリュッセルの官僚たちがフランスの経済や農業を操作している。われわれの手に取り戻す!」。ルペン氏は今月上旬、酪農業が盛んな中西部で開いた集会でこう声を上げ、喝采を浴びた。米国のトランプ大統領のように「自国第一」を掲げ保護主義を打ち出すルペン氏にとって「反EU」は大きな武器になっている。

 パリ政治学院政治研究センターのジャン・シッシュ研究員(政治学)は「不安定で経済的に苦しい、多くの農業者や労働者らはグローバル化や欧州の自由主義経済から取り残されていると感じている」と指摘。「そのため欧州の基準や枠組みからの離脱を主張している極右への投票行動につながっている」と分析する。

<フランスの農業> 農業生産額(2014年)は約730億ユーロ(約8兆5500億円)で欧州最大の農業大国。仏メディアによると、EU全体の18%を占め、ドイツ(14%)、スペイン(10%)などを上回る。穀物生産や肉牛・牛乳生産でEU首位。国内に約50万農家を抱え、農地面積は約2900万ヘクタール。農業人口は約90万人で、労働人口の約3.6%を占めるが、減少傾向にある。農業者の自殺者は近年急増し、最新の調査では10、11年の2年間で計約300人が借金苦などで自ら命を絶った。特に肉牛や牛乳の生産者が多いという。

 

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