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<スナック再考>(下)ハイパースナック サザナミ(円山町) 友達と出会える進化系

東京

2018年1月4日

DJバーを改装して新しい店を始めた町田博雅さん。男性客が多い一般的なスナックと違い女性が客の4割ほどを占めるという

 渋谷駅から歩いて五分。道玄坂を上りきった円山町の交差点まで来ると、雑踏の景色は消えていた。夜、辺りを歩くのは目指す場所がある人たちばかりだ。

 雑居ビル地下の店に若者が吸い込まれていく。「大人になってからの『友達』に出会えるリアルコミュニケーションコミュニティ」と、少しキャッチフレーズは長い。マスターの町田博雅さん(37)が二〇〇六年から営業していたDJバーを改装し、一六年に開店した。

 場所柄、アーティストやIT関係者、カメラマンら多彩な客が集まる店だった。趣味の話から、客同士が仲良くなっていくのを見ていた。店での出会いから、五組ほどのカップルも生まれた。

 一六年春、DJバーで音楽を選んだり、イベントを開いたりするのに疲れを感じていたころ。インターネットを通じ広く出資者を募るクラウドファンディングの手法を客から教わり、「バーとスナックの間のような店ができたら」と新しい挑戦を決めた。情報は会員制交流サイト(SNS)で広まり一気に支援が集まった。「ネットの世界が充実しても、相手の目を見て話す場を皆欲している」と確信した。

 祖母が本郷で旅館を経営していた。大人たちが酒を酌み交わしてくつろぐ光景は、幼いころからなじんでいた。親戚に連れられて「スナックデビュー」したのは十五歳の時。今も旅行で温泉街に行くと、スナックに足を向けて地元の人たちと会話を楽しむ。そんな空間の良さも知っていた。

 「コンセプトは新しくて懐かしい。テーマは『人』と『出会い』」。無線LAN、50インチモニターなどの設備は、客が一人の時間を過ごすためのものではない。iPad(アイパッド)で自分の好きなものを他の客に薦め合ったり、映像を見たり、ゲームをしたりして会話のきっかけにしてもらうためだ。カラオケは、家庭用ゲーム機「Wii U」の内蔵ソフトを使う。

 カウンターには町田さんだけでなく、曜日ごとに替わる「ママ」がいる。DJバーのころからの常連客は「昔ながらのスナックのよさを生かしながら、次の時代を模索しているようだ」と話した。東京五輪の開かれた一九六四年ごろ、若者の集まる最新の飲食店として始まったスナック。半世紀の時を経て、再びの進化が始まろうとしている。 (神谷円香)

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開店資金を集めたクラウドファンディングのサイト画面

<ハイパースナックサザナミ> 渋谷区円山町5−3。営業は午後7時〜ラストオーダー深夜2時。定休日は日曜日、祝日。電03(6657)3870。

<円山町> 荒木町(新宿区)や湯島(文京区)など、スナック密集地は、かつての花街に多い。ラブホテル街の印象が強い円山町も都内有数の花街だった。

 江戸時代は、神奈川・伊勢原の大山へ向かう参詣道の宿場町。明治時代に料亭が集まるようになり、最盛期の大正後期は420人を超える芸者衆でにぎわったという。

 1923(大正12)年の関東大震災後の復興で、商店街「百軒店(ひゃっけんだな)」ができ、映画館やジャズ喫茶などが立ち並ぶ娯楽の中心地に。高度経済成長期には料亭が姿を消していく中、ラブホテルが進出を始める。

 2000年代に入ると、風俗店が開業ラッシュとなる。一方でライブハウスやクラブも集まるようになり、音楽文化の発信基地としての顔も持っている。

 

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