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「東京人」12月号編集部おすすめ 永井荷風−愛すべき散歩者

東京

2017年11月5日

永井荷風が42年間書き続けた「断腸亭日乗」。荷風の生き方、作品研究など、荷風を知るための一級資料でもある(所蔵・永井壯一郎、協力・千葉県市川市)

 『ふらんす物語』『日和下駄(げた)』『つゆのあとさき』『〓東綺譚(だん)』など、明治末から大正、昭和にかけて活躍した小説家永井荷風(一八七九〜一九五九年)が、近現代の日記文学の最高峰とうたわれる『断腸亭日乗』を書き始めたのは、百年前の一九一七(大正六)年九月十六日のことです。

 亡くなる前日まで四十二年間にわたってつづられた「日乗」には、東京の山手から下町まで変わりゆく町の風景や風俗、失われてしまったかつての東京を訪ね歩く様子が克明に記されています。本号では銀座、浅草、荒川放水路、小石川、新宿、市川の町を選び、荷風が町の何に心引かれ、作品にしたのかを「日乗」から読み解きます。

 「日乗」は、ほかの読み方もできます。荷風を愛し、自らも散歩好きを公言する評論家の川本三郎さんが「(女性が)どんな服を着ているのか、どんな男遍歴があるのか、どんな暮らしをしているのか。女性の辿(たど)ってきた暮らしのすべてをとらえようとした。決して情を交わすことにのみ意を向けた好色作家ではない」と言うように、「日乗」には荷風が取材した玉の井の私娼(ししょう)や銀座のカフェーの女給たちの暮らしぶりが、事細かに書かれています。

 荷風が生涯、尊敬の念を抱き続けた森鴎外も「日乗」に度々登場します。その一貫した思いも含め、鴎外についての著書もある森まゆみさんは「『断腸亭日乗』を読むにつけ、自らの流儀に忠実に孤独を磨いた荷風が頼もしく思えてくる」と書きます。 (「東京人」副編集長・田中紀子)

 【12月号主な内容】快楽を肯定するひかげの女たち 川本三郎▽武士道と少女道 持田叙子▽物事の本質を捉え、自らの信条を貫き通した人生 森まゆみ▽荷風の背中を追いかけて、『断腸亭日乗』を歩く 壬生篤▽エッセイ 林文子、大竹昭子、岩下尚史

 問い合わせは、「東京人」編集部=電03(3237)1790(平日)=へ。

 ※〓はさんずいに墨

 

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