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<ひと ゆめ みらい> 銭湯ハンコ作家・廣瀬十四三さん

東京

2017年10月30日

消しゴムを彫って銭湯ハンコを作る廣瀬十四三さん=足立区で

 「他に聞いたことはないし、日本、世界に一人だけかな」。銭湯をモチーフにはんこを作る「銭湯ハンコ作家」を名乗る。三センチ四方などの枠内にかわいいイラストをちりばめ、独特の味わいや魅力を詰め込む。それぞれの銭湯ならではの絵柄が生み出されていく。

 銭湯にある城の壁画が圧倒的なら、瓦一枚一枚が分かるほど緻密に。湯の熱さが特徴なら、入浴中の女性に汗を噴き出させる。店主らに取材し、実際に湯に入ってモチーフを決める。手掛けた銭湯ハンコは、都内などの約百六十軒分。消しゴムを彫刻刀やナイフで彫ったり、考えたデザインを専門業者に託したりする。

 幼いころによく、銭湯に行った。小学二年生で銭湯がない地域に引っ越すも、二十代で一人暮らしを始めてからまた通いだした。銭湯と一口に言っても、外観も風呂もそれぞれで違い、「面白かった」。二十年前に銭湯が多い足立区千住に引っ越し、その熱はさらに高まった。

 はんこ作りのきっかけは二〇〇八年に、消しゴム版画家の故ナンシー関さんの回顧展へ行ったこと。五千点もの展示品に圧倒された。少年時代からはんこやスタンプが好き。「銭湯関係で似顔絵のはんこを作ってみたい」と意欲が湧いた。

 第一号は、銭湯文化に詳しい庶民文化研究家の町田忍さんの似顔絵。地域のタウン誌で執筆ボランティアをしていた際に知り合い、歴史や建築といった視点から、銭湯の面白さを教えてもらった。自己流ではんこを作り、本人に見せると、「すごいよ!」と大絶賛。通っていた銭湯の主人らの似顔絵も彫るようになり、見せるたびに喜ばれた。

 評判は広まり一四年秋には、銭湯の専門誌でコラムの執筆を開始。都公衆浴場業生活衛生同業組合のスタンプラリーに使うはんこを作りたいと持ちかけ、組合から了解ももらった。同年末には、プログラマーとして働いていた会社を辞めて独立した。

 同組合によると、都内の銭湯は九月末現在で五百六十八軒。戦後のピークだった一九六八年から二千百軒余りも減った。廣瀬さんがこれまでにはんこを彫った浴場もいくつか閉店している。「なくなってほしくないと思うが、ハンコ作りで廃業を止められるとは思わない」と廣瀬さん。それでも、「何よりも作ることが楽しい。銭湯に関係する人たちや世界がもっと楽しくなれば」。 (中村真暁)

<ひろせ・としぞー> 銭湯ハンコ作家兼コラムニストとして活動。本名、年齢は非公表。作品は12月3日まで文京区千駄木5の「ふくの湯」で展示。現在、同区内の銭湯6カ所で開催中の「文京の湯 銭湯MUSEUM」の会場の一つ。来年1月下旬にも目黒区緑が丘2の「みどり湯」の併設ギャラリー「yururi」で展示会を開催予定。

 

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