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「障害者雇用啓発の行政が水増し」 共に働く民間 冷ややか

社会

2018年9月12日 朝刊

助言を受けながら事務の仕事に打ち込む発達障害の女性(右)=東京都日野市のトッパン・フォームズで

 中央省庁や都道府県で明らかになった障害者雇用水増しが、全国の裁判所や国会でも判明するなど、広がり続けている。皮肉なことに毎年九月は「障害者雇用支援月間」で、厚生労働省などが啓発活動に力を入れている。障害者雇用に熱心な民間企業からは「率先するはずの行政がやっていないのに『月間』なんて」と憤りや冷ややかな声が聞こえる。 (井上靖史)

 印刷・情報処理大手「凸版印刷」の子会社「トッパン・フォームズ」(東京都港区)の日野市にある事業所では、精神障害がある十二人が紙の書類をスキャンしてデジタル化する作業に黙々と打ち込んでいた。

 集中して五十分間働き、必ず十分間休むサイクル。うつを抱えているという男性(48)は「精神障害者は長時間、集中がもたない人もいる。負担を軽くしてもらって助かる」。一日の勤務時間は通常より二時間短い六時間。月二日まで通院休暇を認め、定年退職後に再雇用した職員をジョブコーチとして配置。カウンセラーによる相談を毎日行う。

 同社は二〇〇〇年代後半、グループ再編で障害のある従業員が他社へ転籍したため、〇九〜一二年の法定雇用率を満たせなかった。ハローワークの指導を受け四年間で計千三百万円の納付金も支払ってきた。今年は法定雇用率(2・2%)を上回る2・47%で、改善好事例として厚労相の表彰を受けた。

 人事部の小林良斉(よしなり)さん(47)は「コストも掛けて改善策を進めてきた。法定率に届かなければ官公庁の競争入札から締め出されるとも聞いていた。なのに行政が水増ししていたなんて」とあきれた様子。同部の鈴木康之さん(64)は「健常者なら単純で負担に感じる作業を彼らが引き受けてくれ、本社は企画立案のような仕事に注力できる。後方支援として大きい。役所にもできるのでは」と語る。

 厚労省が発表した昨年六月の民間企業の障害者雇用率は1・97%。当時の法定率2・0%に届いていないが、国の行政機関の1・19%(問題発覚後の再調査結果)よりは進んでいる。

 雇用率が40%を超える優良企業も中にはある。おしぼりの洗浄・加工業「リースサンキュー」(静岡県沼津市)の国武賢一社長(55)は従業員五十六人のうち、主に知的障害の二十四人を雇っている。今回の水増しを「ひどい。一人一人違う個性と向き合い、何をできるか見極めればできることはたくさんある」と憤る。

 以前、仕上げの工程でおしぼりを二つ折りにできない障害者がいた。そこで、平らに広げて破れやほつれがないか確認すれば自動で畳んでくれる機械を導入した。こうした配慮を重ねて、働く場の確保と長期雇用につなげてきた。

 勤続三十一年を迎えた従業員の芹沢朋美さん(47)と神沢(かんざわ)博幸さん(47)が優秀勤労障害者として本年度の厚労相表彰を受けた。国武社長は「一生懸命やっている姿を見れば応援したくなる。こちらも頑張ろうという気になる」と強調した。

◆「なぜ企業には厳しいのか」雇用支援機構に苦情

 毎年九月は「障害者雇用支援月間」とされ、厚生労働省所管の独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」(千葉市美浜区)などは、障害者を多数雇用した事業所や長期勤務している模範的な障害者などを表彰している。全国のハローワークなどの公共機関ではPRポスターを掲示して啓発している。

 機構はこうした啓発活動のほか、法定雇用率を下回っている民間企業から障害者雇用納付金の申告や納付を受けたり、事業所の訪問調査を実施している。水増し問題を受け、こうした業務のやりとりの中で「なぜ企業にはこんなに厳しいのか」といった苦情が相次いで寄せられているという。広報担当者は取材に「具体的な件数は把握できていないが、趣旨はみなさん同じ」と説明している。

 

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