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北海道地震 命の現場、停電にもろく 外来診療中止続出

社会

2018年9月9日 朝刊

札幌市の慈啓会病院の屋上に設置された自家発電装置=7日午前

 北海道地震による道内全域停電は、医療機関に深刻な打撃を与えた。外来診療を取りやめる病院が続出。透析患者や妊婦の診療に支障が出る事態に見舞われた。医療技術の進展で電力依存度が高まる中、電源喪失が患者の命の危機に直結する現状があらわとなった。

 地震発生当日の六日午前九時半ごろ。札幌市中央区の慈啓(じけい)会病院では、各部門の担当者が集まりミーティングを開いた。

 最大の懸案は発電機を動かす軽油の確保だった。既に自家発電に切り替えてから六時間余り。一般外来を取りやめたが軽油は満タンだったとしても十時間分あるかないかだったという。入院患者は約二百人。燃料確保が死活問題だった。

 業者に頼み込んで軽油を配達してもらい、職員たちがポリタンクを屋上まで運んでタンクへの補充を続けた。病院が所有するバス二台、福祉車両の燃料タンクも軽油で満たし、配達が途絶えた場合に備えた。

 電気が復旧したのは七日午前七時半ごろ。「やっとだね」。歓声とともに拍手が上がった。今(こん)真一事務長は「いかに電気に頼っていたか身に染みた」と振り返った。

 非常用電源や三日分程度の燃料確保が求められている「災害拠点病院」でも診療規模の縮小に追い込まれたところがあった。けが人が百五十人以上に上った札幌市では、市立札幌病院以外の三つの拠点病院が一般外来を原則中止に。救急車を使わずに病院を訪れた人が診療を断られるケースもあったという。

 道内の拠点病院の一つ、伊達赤十字病院(伊達市)では、自家発電に切り替えた後、電子カルテや画像を一括管理する院内情報システムが動かなくなり、重症患者を受け入れられなくなった。

 停電は、道内に約一万五千人いる透析患者に切迫した状況をもたらした。透析患者は週に数回、透析を受ける。札幌市などで三つの病院を運営する腎臓内科専門「H・N・メディック」は発電装置を持たないため、他の医療機関への患者移送に追われた。いったん受け入れてくれた医療機関にも「他から要請が相次いでいる。次は分からない」と言われ、受け入れ先を探し続ける綱渡りの対応を迫られた。

 影響は出産を控えた妊婦にも及んだ。千歳市の診療所「マミーズクリニックちとせ」では電子カルテや超音波機器が使えなくなった。妊娠初期から通っていた二十代女性が産気づき、クリニックに運ばれてきたが、この状況下での出産は危険と判断、市内の総合病院に向かってもらった。診療所の島田茂樹院長は「ここでの出産を心待ちにしてくれていたのに…。診療所でも発電装置を備えられるよう国に助成してもらいたい」と話した。

 広域かつ長時間にわたる停電は、太平洋側で甚大な被害が想定されている南海トラフ巨大地震でも起こる可能性がある。

 災害医療に詳しい岡山大の氏家良人(うじけよしひと)名誉教授は「今回の停電規模は従来の想定を超え、電気に依存する医療のもろさを露呈した。大災害発生時のシミュレーションを根本から見直すべきだ」と指摘。一つのエネルギー源に頼ることはリスクがあるとし、災害拠点病院ごとにガス、重油、軽油など燃料を分けておくことの必要性を訴えた。

<災害拠点病院> 1995年の阪神大震災をきっかけに整備が始まった、地震などの災害発生時に24時間体制で傷病者を受け入れる医療機関。ヘリコプターの離着陸場や自家発電機、災害派遣医療チーム(DMAT)を整備し、3日分程度の食料や医薬品、燃料を備蓄することが指定要件となっている。今年4月時点で全国に731カ所ある。

 

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