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障害者雇用水増問題 小声で「視力いくつ?」 元横浜家裁職員が証言

社会

2018年9月2日 朝刊

「裁判所は一番法令を順守しなければならないのに」と、障害者雇用の水増しに加担を求められた当時を振り返る藤川延雄さん=さいたま市西区で

 中央省庁などが障害者の雇用を水増ししていた問題で、元裁判所事務官の藤川延雄(のぶお)さん(69)=さいたま市西区=が現職時代に「障害者扱い」を上司から依頼されたと証言した。長年にわたり現場での「水増し工作」が横行していた実態の一端を浮き彫りにしている。 (山本哲正、井上靖史)

 「ちょっといいですか。藤川さんの視力はいくつですか?」。一九九五年六月十二日の午前中、横浜家裁の経理係長だった藤川延雄さん(69)の隣の席に上司の男性が座り、切り出した。周囲に聞こえないよう、小声だった。

 「裸眼で〇・〇いくつか、この眼鏡をかけて〇・四ぐらいです」。藤川さんが答えると、上司は「名前を貸してもらえませんか? 役所は体の不自由な人を何%か雇わなければならない。しかし、当庁(横浜家裁)では二人いるだけ。届けないといけないから」と頼んできた。国は障害者雇用促進法に基づき、各省庁や地方自治体などに年に一度、障害者雇用率の報告を求めている。

 藤川さんは「私の視力ぐらいの人は大勢いる。対象者は例えば、腎臓透析を毎週受けなければいけない人では」と指摘。上司は「ただ名前を貸すだけ」と説得したが、断った。

 藤川さんは前年の同じ頃も、上司の前任者から「ちょっと名前を貸して」と頼まれ、断っていた。上司が東京高裁にいたこともあり、「多くの裁判所で行われているのでは」と疑問がわいた。職場で問題提起するビラを配ったが、「怪文書扱いされた」といい、二年後に足利検察審査会(栃木県)に異動となった。

 当時の同僚の男性も、上司から「冗談交じりみたいな感じで持ち掛けられたことがある」と証言した。

 上司だった男性は、本紙の取材に「自分が新たに藤川さんに声を掛けたわけではなく、既に障害がある分類に入っていると引き継ぎにあったので、(年に一度の)報告に当たって確認のために声を掛けたと記憶している」と認めた。藤川さん本人が知らないうちに障害者と扱われていたとみられる。

 この元上司は「当時の管理職は障害者雇用率という数値目標があるとみんな認識していた」と説明。障害者雇用促進法で認定される障害者の基準を詳しく知らなかったといい、「どういう方を障害者と数えるのか、もっと意思統一をしていればこういうことは起きなかったのではないか」との見方を示した。

 藤川さんは「本当に、知らないうちに勝手に障害者扱いされていたのなら、もっとひどい。残念だ」とため息をついた。

◆裁判所の障害者雇用 法定率下回る可能性

 障害者雇用数の水増しは国の行政機関の八割に当たる二十七機関で判明しており、昨年十二月に発表した雇用障害者の半数に当たる三千四百六十人が水増しだった。健康診断の結果から本人に確認せずに算入したり、人事関係の書類に本人が書いた病名で判断するなどの不正が行われていた。

 これと別に最高裁も全国の裁判所を調査した結果、水増しがあったと厚生労働省に報告。昨年の障害者雇用率は全体で2・58%としていたが、実際は当時の法定雇用率2・3%を下回る可能性がある。

 国や自治体での雇用義務が始まった一九六〇年当初から、水増しが常態化していた可能性も指摘されている。各省庁は「障害者手帳の確認が必要という認識が希薄だった」(内閣府)などと不備は認める一方、「意図的な水増しはない」といずれも否定している。

 

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