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<地域のチカラ>沖縄・与那国 海の馬、観光引っ張る

社会

2018年9月1日 夕刊

海の中で与那国馬に乗る観光客=沖縄県与那国町で

 日本の最西端に位置する与那国島(よなぐにじま)(沖縄県与那国町)で、海の中で馬に乗ったり、しっぽをつかんで泳いだりして楽しむ「海馬(うみうま)遊び」が観光客に人気だ。波間を駆けるのは、一時絶滅の危機にあった日本在来馬「与那国馬」。その繁殖に取り組み、町おこしの主役に押し上げたのは、都会からやって来た一人の若者だった。 (佐藤圭)

◆小柄なのに強健

 「馬と一緒に泳ぐのは初めて。かわいい」。白い砂浜とエメラルドグリーンの海がまぶしい島西部のナーマ浜。名古屋から友人と訪れ、海馬遊びを体験した美容師の奥田あゆみさん(31)が声を弾ませた。海から上がった与那国馬は、肩までの高さが一一〇〜一二〇センチと、サラブレッドなどの外来種より一回り小さい。

 このユニークな乗馬体験を提供するのは、地元の一般社団法人が運営する「ヨナグニウマふれあい広場」。運動場くらいの広さの牧場で十九頭を飼育している。創設者の久野雅照さん(67)は「小柄なのに強健で従順だ」と目を細める。

 島内には、町有地にある牧場二カ所で計六十頭が自然放牧され、個人所有を含めて計百三十頭いる。

 明治以来、国は大型の軍馬を調達しようと、外来種と在来馬を交配させる品種改良を全国的に進めたが、絶海の孤島には国策が及ばず、与那国馬は純血性を保った。戦後、農業の機械化と自動車普及の波に押されて農耕馬の役目を終えると、一九七〇年代には五十頭台にまで減少。危機感を募らせた町民有志が七五年に与那国馬保存会を結成し、頭数を増やしていった。

与那国馬の未来について語る久野雅照さん=沖縄県南城市で

◆新聞記事が転機

 長崎県出身の久野さんは当時、神奈川県の湘南に住んでいた。「与那国馬 絶滅の危機」という新聞記事が目にとまった。「今で言うフリーターをしながら将来を模索していた。三十歳を前に記事を読んで『これしかない』と直感した」

 八二年、与那国島に移住した。サトウキビの刈り取りや泡盛づくりなどで生活費を稼ぎ、無償で借りた山を開墾。九二年にふれあい広場を設立した。

 久野さんが繁殖とともに腐心したのが、与那国馬の新たな活躍の場だ。海馬遊びを考案したのも久野さん。「浜で馬と遊んでいた時、一緒に海に入ると、実に気持ちよさそうだった」。今では島の名物に育ち、これを目当てにやって来る観光客も多い。

◆島民もっと活用を

 与那国島の人口は千六百八十人。農漁業を除けば、主な産業は観光業くらいだ。与那国馬保存会の事務局を長年担当する町職員の前楚(まえそ)和秀さん(41)は、久野さんらの取り組みを頼もしく見つめる。「与那国馬が全国に知られるようになったのは久野さんのおかげだ。島の人も、もっと観光などに活用しないといけない」

 久野さんは昨年十月、代表から顧問に退き、運営を若いスタッフたちに任せた。「保守的な地方で地域おこしを担えるのは『若者、よそ者、バカ者』。私がそうだった。若者の夢こそが地域を変えていく」

<日本の在来馬> 日本馬事協会が定める在来馬は、北海道の「北海道和種馬」と長野県の「木曽馬」、愛媛県の「野間馬」、長崎県の「対州馬」、宮崎県の「御崎馬」、鹿児島県の「トカラ馬」、沖縄県の「宮古馬」「与那国馬」の8種。肩までの高さが140センチ以下と小型なのが特徴。北海道和種馬は1000頭いるが、ほかの7種は数十〜百数十頭しかおらず、各地の保存会が個体数の維持に努めている。

 

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