XMenu

「タンク貯蔵、継続を」 トリチウム水放出で「漁業は壊滅的」 公聴会

社会

2018年8月30日 夕刊

公聴会の会場前で、横断幕などを掲げてトリチウム水の環境放出に反対する市民ら=30日、福島県富岡町で

 東京電力福島第一原発では、除去するのが非常に難しい放射性物質トリチウムを含む百万トン近い処理水がタンクにたまる。これをどうするのか。政府は海洋放出を有力視するが、福島沖での漁業は、まだ試験操業により魚介類の安全性を確かめている段階。三十日に福島県富岡町で始まった政府の有識者会議による公聴会では、参加者から安易に放射性物質を環境中に放出することへの批判が相次いだ。 (山川剛史、松尾博史、宮尾幹成)

 同町役場の隣にある図書館やホールを併設した「学びの森」で開かれた公聴会。冒頭、政府側の担当者が福島第一原発ではタンクを増設する用地がなくなりつつあるなどの状況を説明しながら「科学的に安全というだけでなく、社会的合意がなければ放出はしない」と述べた。

 説明は十五分ほどで終了し、五分の持ち時間で順番に意見表明に入った。最初に発言した同県広野町町議の阿部憲一さんは「総量規制をしようとせず、薄めて海に捨てればいいというのでは何も信用できない。海洋放出は駄目。タンクに貯蔵し続けるべきだ」と声を荒らげながら話した。

 その後も貯蔵を選択肢に入れず、放出ありきで検討を進める政府の姿勢への批判が続いた。公聴会はいずれも平日開催で、本当に国民の声を聴くつもりがあるのか疑念の声も上がった。

 漁業者の声は特に切実。小野春雄さんは「ようやく試験操業から本格操業へという時期に、なし崩し的にトリチウムを放出しようというのか。絶対に反対だ」と訴えた。県漁業協同組合連合会の野崎哲会長も「この時期に海洋放出されれば福島の漁業は壊滅的な打撃となる。築城十年、落城一日だ」とし、政府が国民的な議論を尽くすことが大前提と訴えた。

 「経済的には最も有利」として海洋放出を支持する声も出たが、風評被害を最小限にするため「放出する水のトリチウム濃度を全て測定して、影響がないレベルであることを証明することが不可欠だ」と条件を付けた。

◆福島沖漁業、復活遠く 水揚げ震災前の1割

 福島沖の沿岸漁業は、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で大打撃を受けた。福島県漁業協同組合連合会(県漁連)は二〇一二年六月に試験操業として再開したが、水揚げ量は震災前の一割強にとどまる。魚介類の放射性物質の濃度を調べながらの状況が続いており、復活は遠い。

 福島沖は黒潮と親潮がぶつかる豊かな漁場で、カレイ類やヒラメは「常磐もの」という高級品として知られてきた。原発事故は、その海を放射能で汚した。

 県によると、一一年度の魚介類の放射性物質検査では、三割強で食品基準(一キロ当たり一〇〇ベクレル)を上回った。しかし、その後は急激に濃度が低下。一五年四月以降は、基準を超えた魚介類はゼロとなっている。

 試験操業当初は出荷できるのはミズダコなど三種だったが、今はヒラメなど約二百種に。県漁連は放射性物質について国より厳しい基準(一キロ当たり五〇ベクレル)にして安全面に気を使う。漁港の復旧も進み、水揚げ量は年々増えている。

 ただ、漁業関係者の風評への不安は根強い。今年三月にはタイに輸出された福島産ヒラメについて、現地の消費者団体が安全性を懸念するメッセージをインターネットで発信し、県主催のPRイベントが中止となった。

 県水産課の担当者は「首都圏のスーパーに福島産の水産物の販売コーナーを設けるなどして、消費拡大や安全性のアピールに取り組んでいる」と話した。 (松尾博史)

 

この記事を印刷する