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文学賞イシグロさん 村上春樹さんと親しく

社会

2017年10月6日 朝刊

 「最初に小説を書き始めた際の動機は、私の日本の記憶を保存することにありました」。ノーベル文学賞に決まったカズオ・イシグロさんは二〇一五年に来日し、共同通信のインタビューに、そう語っていた。

 長崎市生まれで五歳の時、海洋学者だった父が英国の研究所に招かれ、一家で移住した。以来、英国で暮らし、長く日本の土を踏むことはなかった。

 目を閉じて思い出す日本は、小津安二郎(おづやすじろう)監督の映画「東京物語」の一場面のような風景。「英国のテレビで放映されているのを十一歳の時、母と一緒に見た。障子に畳の部屋など、自分が幼少時を過ごした記憶がよみがえってきて、非常に感動的な経験をしました」

 しかし、二十代半ばになって、その頭の中の日本が薄れていくように感じた。そのことが小説執筆へとイシグロさんを駆り立てた。最初の長編「遠い山なみの光」と続く「浮世の画家」はいずれも日本を舞台に選んだ。「小説を書くことと思い出すことの深い関係が、作家人生の土台でした」

 その後のイシグロ作品でも「記憶」は一つのキーワードだ。八九年に英ブッカー賞を受賞した代表作「日の名残り」は、英国の執事が古き良き時代を追想する内容。最新作「忘れられた巨人」では、個人を超え、より広く、共同体にとっての記憶の在り方を問うた。「私の作品は、人間がいつ過去を記憶したらいいのか、いつ過去を忘れたらいいのかという問いに葛藤する物語です」

 日本の作家では村上春樹(むらかみはるき)さんと親しい。村上さんは「村上春樹雑文集」(新潮社)の中で「一人の小説読者として、カズオ・イシグロのような同時代作家を持つことは、大きな喜びである」と記している。イシグロさんも「村上さんの作品に表れる悲しさの漂うユーモアが好き」と語る。

 

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