ALS体験記 難病と向き合い生きた 静岡の男性 出版後に死亡

社会

2017年4月21日 夕刊

生前の藤元健二さん(中央)と家族=2015年10月、千葉県浦安市で(家族提供)

 東京都内で七日に開かれた出版記念パーティー。約百二十人が集まった会場に、主役の姿はなかった。著者は全身の筋力が徐々に低下する難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患った静岡県富士宮市の藤元健二さん。体験記「閉じこめられた僕」の出版から半月もたたない三月三十一日、五十三歳でこの世を去った。

 コーヒー店店員だった藤元さんが体にしびれを感じるようになったのは二〇一二年。五十歳だった一三年にALSの確定診断を受けた。二年ほどで寝たきりとなり、二十四時間の介護が必要となった。

 そんな時、日課として始めたのがフェイスブックへの投稿だ。入院中に蚊に刺された際は「この病気の最もつらいことの一つ。かゆいけど、かけない」。病院食でパンを選んだのにみそ汁とつくだ煮などの和食のおかず。「残りわずかな回数の食事をできるだけ充実したものにしたい」

 日常生活や医療への不満を率直に書いた投稿は、同じ病気の関係者らの共感を呼んだ。「動かなくなっていく自分の体に対峙(たいじ)すると、心は鍛えられるかもしれない」。自らを鼓舞する文章もしばしば発信した。

 指の自由が利かなくなってからは、目の動きで文字を入力する装置を使った。地域の小学校での講演やラジオ出演もこなし、活躍の場を広げた。投稿を基にした本の出版の話も舞い込んだ。

 ところが一六年春、心筋梗塞と糖尿病に加え、末期の胃がんと判明。人工呼吸器が必要となり声を失った。「本当に助けてほしい」。弱気を見せることもあったが、治療を受けながら、最後まで前向きに編集作業を続けた。発売直前、出来上がった本を見て、ベッドの上でほっとしたような笑顔を見せた。

 妻和子さん(51)は「夫は病気と闘うのでなく、受け入れた上で生きようとしていた。道半ばだったが形になるものを残せてよかった」と語る。その思いは本を通して多くの人に伝わる。

 

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