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もう一度大切な人に会いたい… 7月13日あけくれ「不思議な子」が話題

暮らし

2018年9月4日

茂之さんの幼いころの写真を抱く私市清江さん=東京都西東京市で

 近所で出会った男の子とのやりとりを描いた「あけくれ」への共感が広がっている。約二十年前に亡くなった一人息子の命日に起きた不思議な体験をつづった投稿。七月に掲載されると、大切な人をしのぶ時季と重なったこともあり、ツイッターを中心に話題となった。 (稲葉千寿)

【投稿要約】

 都営団地の階下で自転車を止めた。7歳くらいの男の子が近づいて「そこは駐輪場ではありませんよ」。階段を上っていると、また声が。男の子は2段飛ばしに駆け上がる。用事を済ませ、捜すと、道路の向かい側の自動販売機の上にあぐらをかいている。いた、いた。男の子は「バイバイ。いい月ですねー」と言う。不思議な子である。ちょうど息子の祥月命日。もう一度、あの子に会いたい。

    ◇

 投稿は七月十三日掲載の「不思議な子」=要約参照。読者の一人が掲載紙面の写真をツイッターで紹介したのをきっかけに拡散した。リツイート(転載)は九千七百件を超え、「いいね」も二万三千件を超えた。「小説みたい」「実話だろうがなかろうが、引き込まれる」などのコメントもあった。

 筆者は、東京都西東京市の主婦私市(きさいち)清江さん(70)。投稿の評判は、北海道の知人から聞いた。中には「創作では」と疑いを挟む感想も。しかし清江さんは「創作したとすれば、その想像力はすごいですね」と笑って受け流す。

 投稿のきっかけは、押し入れの整理中、五、六年前の不思議な体験をつづったメモ書きを見つけたこと。「都営団地で男の子に会いました。Tシャツとベージュの半ズボン姿。声をかけてくれて、かわいいなと思って。アパートの階段下に飲料の自動販売機があり、階段から自販機の上に乗ったのでしょう。もうアパートも自販機もない。あの子、どうしているかな」

 男の子に出会ったのは、一人息子の命日。長男の茂之さんは、先天性筋ジストロフィーだった。養護学校(現・特別支援学校)高等部卒業後、在宅で訪問診療を受ける日々。「楽しい暮らしであることを伝えたくて」。清江さんは「たより」を書き、関係者に毎月発行していた。

 意思疎通は清江さんが考案したサイン「茂語(しげご)」で。最期の一カ月間、茂之さんは眠れぬ夜が何日も続いていた。「眠い、眠い」と言う茂之さんは、清江さんが電灯を消すと、「うれしい」のサインをして眠りについた。「翌朝、呼吸が乱れて…。悲しかったけれど、やっとゆっくり眠れてるなとも思った」。一九九七年九月二十八日、永眠。享年二十六。

 「大往生でした」と父の源三郎さん(73)は振り返る。源三郎さんは、茂之さんが鍼(はり)治療を受けていたことから、市役所勤務の傍ら夜学に通い、鍼灸(しんきゅう)師資格を取得。茂之さんの死後、五十二歳で開業した。

 清江さんは「息子がレールを敷いてくれた。茂之のおかげでたくさんの本当の優しさを感じるようになった」と、今も感謝を忘れていない。不思議な体験についても「あの子を通して、息子が元気な姿を見せてくれた。誰が何と言おうと、そう思えたことが私の宝です」。

 投稿は、少なくない読者の心をとらえたようだ。「自分も何度か不思議な出逢(であ)いをした」「私にも、現実では考えられない状況であってでもいいから、もう一度会いたい人がいます」。ツイッターには、そんな共感も書き込まれている。

 

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