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<食卓ものがたり>刺し身にピリリッ漁師流 虎の尾(三重県尾鷲市)

暮らし

2018年9月1日

緑色に実った「虎の尾」=三重県尾鷲市で

 先端がぐにゃりと曲がったサヤ。生でかじると、強い辛さが口の中で広がった。

 熊野灘に面し、棚田が広がる三重県尾鷲市の向井地区に伝わる青トウガラシ「虎の尾」。形が虎のしっぽに似ていることが名前の由来で、地元住民でつくる農事生産塾「向井の里」が生産を手掛ける。七百五十平方メートルの共同の畑のほか、メンバーがそれぞれの自宅の畑で生産。収穫期は毎年七月から十一月ごろまでで、スーパーなどに出荷している。

 そのまま焼いたり、料理に入れたりと食べ方はさまざまだが、細かく刻み、ワサビの代わりに刺し身に付けて味わうのが尾鷲流だ。「尾鷲の漁師たちは昔から漁に出る際に虎の尾を船に積み込み、仲間と一杯やるときに刺し身に付けて食べていたそうです」。向井の里の理事長を務める黒俊人さん(71)が教えてくれた。

 いつの時代から生産されているのかは不明だが、向井地区の先祖が九州に出掛けた際、持ち帰ってきて植えたのが始まりと伝えられている。辛味のない京都の伝統野菜「伏見甘長トウガラシ」と見た目はそっくりだが、味は辛いため「伏見甘長と辛い品種が交配したのかも」という説もある。

 住民がほそぼそと育ててきたこのトウガラシに光が当たったのは、十年ほど前。地域の埋もれた食材を発掘、応援する三重県の事業に認定されたのを機に広く知られるようになり、地元でもPRしていこうという機運が高まってきた。高齢化で耕作放棄地が増える中、「地元を活気づけるきっかけに」という住民の期待も背負う。

 今の生産者は六十〜七十代で、担い手の確保が大きな悩み。それでも、全国のファンから「どんなものか食べてみたい」と問い合わせがくるのが、黒さんたちの励みになっている。「尾鷲でしかつくれないもの。ずっと絶やさんようにしたい」

 文・写真 河郷丈史

袋入りの虎の尾(右)と、虎の尾を使った飴などの加工品

◆味わう

 虎の尾は10本ほどの袋入りで、尾鷲市などのスーパー「主婦の店」で販売している。虎の尾を使った飴(あめ)や、甘夏の果汁などと合わせた薬味といった加工品も開発されており、虎の尾の辛味を生かしたパスタを提供する飲食店もある。問い合わせは、向井の里=電0597(22)3721。

 

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