XMenu

<評>扇雀、秘めた激情うまく 歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」

伝統芸能

2018年8月17日

 第一部の北條秀司作「花魁草(おいらんそう)」では、暗い過去をもち自分の秘めた激情におびえるお蝶の特異な感触を中村扇雀がうまく描き出す。中村獅童の幸太郎は実直快活で二人がいい取り合わせ。松本幸四郎、中村梅枝の百姓夫婦、坂東弥十郎の座元、片岡市蔵の達磨(だるま)問屋も実感があって手堅く、「愛する男のために身を引く女」という古風な悲恋物が十分に生きた。

 落語「星野屋」を脚色した新作「心中月夜星野屋(しんじゅうつきよのほしのや)」では、中村七之助、獅童、市川中車の三人が喜劇の優れたセンスを見せるが、落語の舞台化は背景に最低限のドラマが描かれないと成立しないだろう。他に幸四郎、市川染五郎の「龍虎」。

 第二部は幸四郎の弥次郎兵衛、市川猿之助の喜多八で「東海道中膝栗毛」、扇雀の其角、坂東弥十郎の大尽で「雨乞其角(あまごいきかく)」。

 第三部は「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」。幸四郎の源五兵衛は五人切の場からぐっと凄(すご)みを増すが、小万殺しの後の引っ込みに現代風の雨音や照明が加わるのは艶消し。ともに初役の七之助の小万、獅童の三五郎はいずれもあまり悪を利かせない役作りで、「忠義」が惨劇を呼ぶ皮肉が浮かび上がる。二十七日まで。

 八月四、五日には中村歌昇、中村種之助による第四回「双蝶会」が開催された。種之助の忠信、歌昇の義経で「義経千本桜 四の切」と、歌昇の関兵衛、種之助の宗貞で「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」。歌昇の関兵衛はキビキビとして、特に星操りのくだりでは目覚ましい古怪さ、スケールの大きさを見せた。小町姫・小町桜の精の二役を演じた中村児太郎もおっとりとして美しく、若手によるこの難曲が期待以上の大当たり。

 (矢内賢二=歌舞伎研究家)

 

この記事を印刷する