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<中村雅之 和菓子の芸心>三つの味にこそ意味 「鉢の木」(群馬県高崎市・鉢の木七冨久)

伝統芸能

2018年8月10日

イラスト・中村鎭

 「いざ鎌倉!」

 一大事が起こった場合のことを言う。能「鉢木(はちのき)」から出た言葉で、かつては日本人なら誰でもが知っている常套句(じょうとうく)だった。

 上野国(こうずけのくに)(現在の群馬県)に住む武士・佐野源左衛門常世(つねよ)は、領地争いに敗れ、妻と2人、薪にも事欠く貧しい暮らしを送っていた。

 ある雪の夜、常世は旅の老僧に宿を貸し、暖を取るため、大切にしていた梅・桜・松の枝を切り、いろりに投じる。

 しばらくして、鎌倉から大号令が下る。常世が老骨に鞭(むち)打ち、「いざ鎌倉!」と馬に乗り駆けつけると、そこには、あの夜の老僧がいた。実は先の執権・北条時頼だったのだ。

 時頼は、常世の忠義を讃(たた)え、褒美として旧領を安堵(あんど)したのに加え、新たに梅・桜・松の名の付く3カ所の領地を与える。

 この常世が暮らしていたとされるのが、現在の高崎市。地元には、常世を祀(まつ)る神社もある。

 同じ高崎市内に「鉢の木 七冨久(しちふく)」が開業したのは大正6(1917)年。戦前は武士道を賛美する風潮の中で「鉢木」の話は教科書にも載っていた。その時代に、文字通り看板菓子として生まれたのが「鉢の木」だ。

 「鉢の木」は、求肥(ぎゅうひ)に卵を加えて練り上げた珍しいお菓子。弾力のある口当たりが特徴で「和風マシュマロ」といった感じだ。

 紫蘇(しそ)・柚子(ゆず)・黒糖と3種類の味があり、それぞれに梅・桜・松の焼き印が押されている。まさに3種類あることにこそ意味がある。ぜひ3種類とも味わうことをお勧めしたい。(横浜能楽堂館長)

<鉢の木> 七冨久 群馬県高崎市赤坂町七三。(電)027・322・6001。鉢の木は9個入り1204円。

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 伝統芸能とゆかりの深い和菓子を横浜能楽堂の中村雅之館長が紹介します(随時掲載)。

2003年、福井市で上演された宝生流の「鉢木」

 

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