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<新かぶき彩時記>「俊寛」の元セレブ 慣れない生活に疲弊

伝統芸能

2018年8月3日

 環境の激変で疲弊する都会のセレブ−。そんな風にも思えるのが「俊寛」です。近松門左衛門の人形浄瑠璃の歌舞伎化で、改作の多い近松作品のなかで、ほぼ原作通りの台本で上演されています。

 平清盛へのクーデター計画が露見して島流しになった僧侶・俊寛と、仲間の貴族・成経と康頼。俊寛の最初の「出」に注目。浜辺を歩くよろよろとした足取りは、食うや食わずで慣れない島暮らしに衰弱している様子。実はまだ三十代ですが、外見は老人のよう。それでも元高僧の威厳や貴族の品位を見せねばならないのが難しい。

 成経が島の娘・千鳥と夫婦になると聞き、喜ぶ俊寛ですが、一滴の祝い酒も盃(さかずき)もないと嘆きます。すると千鳥は、清水入りの竹筒を差し出し「酒と思う心が酒」と、アワビを盃に、一同は三三九度の真似(まね)事をします。俊寛は扇がわりに小枝をとって祝いの所作をしますが、弱っているため尻もちをついて力なく笑う。健気(けなげ)な島の娘と、都の生活が忘れられない元セレブたちの対比も哀れです。

 そこへ赦免の船がやって来て喜ぶ一同ですが、俊寛は役人から都に残した妻の惨死と、千鳥の乗船拒否を告げられ、自分がかわりに島に残ると決断。しかし「思い切っても凡夫心(ぼんぷしん)」という浄瑠璃の詞章通り、思わず遠ざかる船を追いかけ、呆然(ぼうぜん)と見送るのです。(イラストレーター・辻和子)

 

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