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<新かぶき彩時記>「船弁慶」の怨霊 前半とは真逆のキャラ

伝統芸能

2018年7月20日

 前半は美しくたおやかな女性、後半は不気味な亡霊と、真逆のキャラを一人で演じ分ける舞踊が「船弁慶」です。

 源氏に滅ぼされた平家の武将・平知盛の怨霊姿が見どころ。舞台は源平合戦にゆかりの大物浦(だいもつのうら)(兵庫県尼崎市)。壇の浦の戦いで入水した知盛の怨霊が、頼朝に追われて逃避行中の源義経一行の前にあらわれるという内容です。

 能の「船弁慶」をアレンジした作品で、前半では義経の愛妾(あいしょう)・静御前が、義経に別れの舞を見せます。「春の曙(あけぼの)しらじらと(中略)花の色香に引かされて 盛りを惜しむ諸人が 散るをば厭(いと)う嵐山」という京の四季を織り込んだ詞章が、都落ちする一行と静の哀れさをしみじみと感じさせます。

 後半ではガラリと雰囲気が一変。怪しい風が吹き、荒れ狂う海の中から現れる知盛の亡霊。長刀(なぎなた)を手にした青白い形相は、源氏に滅ぼされた平家一門の恨みを一身に背負ったようなすさまじさ。実際の舞台は「松羽目」という端正な演出で照明もあるため、怪しげな雰囲気は演者の技術で出さなくてはなりません。独特の足取りも名手が演じると本当に波の上を滑っているかのよう。やがて弁慶の祈りで霊は花道の向こうへと去りますが、長刀を首に当ててグルグルと回る幕外の引っ込みは、遠く波の渦に運ばれていくようです。 (イラストレーター・辻和子)

 

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