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野村玲子、演じていれば今も一緒 舞台「アンドロマック」 浅利慶太さん最後の企画

放送芸能

2018年9月6日 朝刊

 7月に死去した演出家の浅利慶太さんが最後に企画した舞台「アンドロマック」が7日、東京・浜松町の自由劇場で開幕する。フランスの巨匠ジャン・ラシーヌ(1639〜99年)の戯曲で、亡き夫を思い続けるアンドロマックを演じるのは、浅利さんの妻野村玲子(りょうこ)。「今の自分と重なってしまい切ないですね」と夫と作品への思いを語った。 (猪飼なつみ)

 同作は劇団四季で上演した二〇〇四年以来の再演。当時も野村はアンドロマック役で出演した。出演者はほぼ四人だけ。長ぜりふが多く、浅利さんがこだわった一言一句を完璧に表現する技術が求められる。

 「やはり一筋縄ではいかない作品だと思いました。以前も演出家(浅利さん)から『台本の読み込みができていない』としごかれて大変でした」

 再演は野村が希望した。「演じて学んだことがたくさんあって、その後どんな演目でも役立った。もう一度演じたかったし、若手にも経験してほしかった」

 しかし、浅利さんが最後に演出したのは、四月に再演した「ミュージカル李香蘭」。亡くなる一年ほど前から入退院を繰り返し、「もし最後になるなら李香蘭をやりたい」と熱望し、「アンドロマック」は“その次”に決まった。

 「李香蘭は一番思い入れがあったんでしょうね。中国に取材に行き何度も台本を書き直して。私も一九九一年の初演から李香蘭役を演じていますが、語り継ぐべき作品だと改めて思いました。ただ、最後になるとは思っていなかった」と声を詰まらせる。

 浅利さんは体調を崩しても、稽古開始までに退院することを目標にリハビリして持ち直したという。四季時代は十本以上の演目を抱えることもあったが、二〇一五年に個人事務所を設立してからは、一つの作品に注ぎ込むように朝から指導した。「本当に稽古場が大好きで、いつも演出家の席に座っていた」。いま、その席には稽古中の厳しい表情をした浅利さんの写真が置かれている。

 野村は落ち着く間もなく「アンドロマック」の稽古に入った。「まだあまり実感がないんです。作品と向き合っているときは一緒にいる気がするから」。一方で、稽古場以外でふとした瞬間に「いない」と感じて愕然(がくぜん)とすることも。「だからみんなに稽古に助けられています」と涙ぐむ。

 再演に向け「(浅利さんは)『頑張ってるな』と言うか、『だからアンドロマックは大変だと言っただろ』と言うか、どっちかな」と思い巡らす。「でも若い俳優の成長を見るのが何よりうれしそうだった。今回も若手がぐんぐん育っているので喜んでくれると思います」と笑顔を見せた。

◆あらすじ

 トロイ戦争後のギリシャ。トロイの妃(きさき)アンドロマックは、敵方ピリュスの国に、息子とともにとらわれていた。ピリュスは婚約者エルミオーヌがいながら、アンドロマックに心を奪われ求婚する。アンドロマックは亡き夫を思って拒み、エルミオーヌは嫉妬に駆られる。そこへ、エルミオーヌを熱愛するオレストが来る…。

 

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