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戦争を忘れない 井上ひさしさんの遺志継ぐ舞台「母と暮せば」

放送芸能

2018年8月9日 朝刊

 広島、長崎の原爆や七三一部隊…。戦争をさまざまな視点で描く演劇や朗読劇などが各地で上演されている。終戦から七十三年、悲劇の記憶を風化させないようにと、戦争を体験した世代が祈りを込めれば、戦争を知らない世代も継承の思いを胸に舞台に立つ。

 井上ひさしさんの作品を中心に披露している劇団こまつ座は今秋、「母と暮(くら)せば」(栗山民也演出)を上演する。山田洋次監督の同名映画の舞台版で、長崎への原爆で死亡した息子が亡霊となって母親の前に現れ、思いを交わす物語。

 広島を舞台にした「父と暮せば」、沖縄を見つめた「木の上の軍隊」に続く作品。井上さんは長崎を舞台にした作品も書きたいと思いつつ二〇一〇年四月に死去した。劇団は遺志を受け継ぎ、井上さんの原案を畑沢聖悟が物語にした。

 母親役の富田靖子は「私は長崎から近い福岡で育った。九州で起きたことを未来につないでいくことに、身の引き締まる思い」、息子役の松下洸平は「今を生きる僕らにとって大切なメッセージを持つ作品の一部になれることをとても光栄に思う」とそれぞれ抱負を語った。公演は十月五〜二十一日、東京・新宿の紀伊国屋ホール。

 また、戦争体験世代の女優たちが広島、長崎の悲劇を語り継ぐ朗読劇「夏の雲は忘れない−ヒロシマ・ナガサキ一九四五年」の巡演が今年も続いている。

 一九八五年に始まった朗読劇は、原爆で被害に遭った人たちの手記などを基に構成され、女優たちが各地で伝えている。今年は西日本豪雨の影響で一部公演が中止になったが、今月九日に千葉県君津市、十二日に東京都武蔵村山市で上演予定。舞台に立ち続ける高田敏江は「戦争からは何も生まれない。戦争の悲惨さを若い世代に伝えていきたい」と語る。 (山岸利行)

◆2公演連動で「731部隊」に踏み込む

 劇団チョコレートケーキは、人体実験をして細菌兵器を開発した旧日本軍の「七三一部隊」を取り上げる。九月に上演する「ドキュメンタリー」と、十一月上演の「遺産」の連動公演で、旧満州で中国人ら約三千人を犠牲にした七三一部隊や戦争がのこしたものを問い掛ける。

 脚本を手掛けた古川健(たけし)(39)は「戦争を知らない世代ばかりになったからこそ、先人たちの思いを伝えていかなければならない」と話す。中学生のころから七三一部隊を知っていたが、忘れられつつあるのではないかと制作した。「遺産」は被験者の役に中国出身の女優李丹(りたん)を迎え、過去の深い闇とどのように現代や未来の人が向き合うべきか問う。

 「ドキュメンタリー」は九月二十六〜三十日、東京・下北沢の小劇場楽園(世田谷区)、「遺産」は十一月七〜十五日、すみだパークスタジオ倉(そう)(墨田区)で上演。 (猪飼なつみ)

 

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