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学生演劇 劇的深化で生き残れ 早大「劇研」初の女性主宰「一番感動する」

放送芸能

2018年8月5日 朝刊

「露と枕」の即興稽古で、メンバーら(上)に問いかける井上瑠菜さん=東京都新宿区で

 唐十郎、つかこうへい、野田秀樹…。学生時代から注目を集めた演劇人の系譜に、この夏、一人の女性が加わるかもしれない。学生演劇の老舗、早稲田大学演劇研究会(劇研)の井上瑠菜(るな)さん(21)。演出家の鴻上尚史さん(60)や俳優堺雅人さん(44)を輩出した名門サークルの長い歴史で、女性で初めて劇研内劇団(アンサンブル)の主宰者となった俊英だ。さまざまなエンターテインメントが競い合う時代、若き気鋭が情熱を注ぐ舞台を体感しませんか。 (藤浪繁雄)

 「あなたは何をしようと思ったの?」。劇研内劇団「露と枕」主宰の四年、井上さん(21)が俳優の学生に問う。俳優の個性や適性を把握するために課した即興の稽古で、配役への解釈や演技などに疑問を持つと「スタンスが見えない」と指摘。登場人物の微妙な心理を深く多面的にえぐる芝居を作っていくために大切な過程だ。

 「露と枕」は、一九二〇年創設の劇研では史上初という女性主宰の劇団。今春上演の若者の深層心理を描いた「桎梏(しっこく)ブランコ」が評価され、旗揚げが認められた。中学、高校と演劇部だった井上さんは「プロ」という志を掲げ早大に入学し、体育会ばりに厳しいことで知られる劇研の門をたたいた。清掃など雑務をこなしながら、芝居をつくり続けた。そして、晴れて新たなスタートに立った。

 最近の小劇場や学生演劇は主宰者とごく少数でつくる「ユニット」形式が目立つ。作品に適した俳優陣をその都度集める方式だ。しかし、井上さんは「賛同してくれた仲間と高めていきたい」と固定したメンバーとの作品づくりにこだわる。ネットの影響で手軽に楽しめる娯楽も増えたが「演劇はコストパフォーマンスは悪いけれど一番感動する娯楽。多くの人は心に響く空間を求めていると思う」。

 多くの気鋭を生んできた学生演劇界は、どのような変遷をたどってきたのか。四十年以上続く早大の劇団「てあとろ50’」創設者で、現在は小劇場系劇団や俳優に支援を続ける手塚宏二さん(64)は「一九六〇年代は反体制のアングラ演劇、七〇年代は逆に学生運動などを冷ややかに見る内容が支持され、時代を揺り動かした」と振り返る。八〇年ごろからは斬新でスマートな舞台が主流。それ以降は「さらに好みが多様化し、舞台も細分化された」と語る。

 優れた芝居を発表しても「演劇では食べていけない」と悩み、断念する若者が少なくないのは昔も今も同じだが、一方で「学生演劇に未来の可能性を感じる」と、ビジネスチャンスととらえる「ネクステージ」(大阪)の福井学社長(36)のような経営者も現れた。「観劇三昧(ざんまい)」というネットの定額配信ビジネス=月額九百八十円=を手掛け、四年余で学生演劇も含めた小劇場系三百余劇団、千作品以上を配信。

 配信数を伸ばしているが、福井さんは「お金の使い道で観劇は優先順位が低いかもしれない」と分析。「小劇場は十年、二十年前より上演数が減っているような気がする」とも語った。

 学生演劇のイベントは、二月に京都で開催された「全国学生演劇祭」などのほか、東京でも開催されている。七月二十七日から始まった「シアターグリーン学生芸術祭」(池袋)は、プロ志向者の登竜門。二〇〇七年に始まり、ここから飛躍した人材もいる。今月二十六日まで、大阪芸術大など八大学十一劇団が競う。「露と枕」も十〜十二日に新作「ビリー・ミリガンの毒薬」を上演する。

 同芸術祭を運営する田中雄一朗さん(30)は「学外の人にも見てもらう好機で、劇団に将来性があるか確かめる場」と話す。しかし、ここ数年「若い世代の観劇が減少傾向にある」と見る。「わざわざ来場して長時間拘束されることを是としないのかもしれない」と憂える。

◆一本一本楽しんでつくって 演出家・鴻上尚史さん

 早大劇研出身で、在学中に結成した「第三舞台」の芝居を次々ヒットさせた劇作家、演出家の鴻上尚史さん(60)に当時の思い出、今との違いなどを聞いた。

 −劇研は厳しいと聞きます

 授業に出たら先輩に怒られた。でも、僕らはよく稽古した。盆と正月以外、毎日午前十一時から夜十時まで。だから、第三舞台がブームになった時も驚かなかった。あれだけ稽古して試行錯誤してきたのだから。

 当時劇研は一学年で四十人ほど入り、うち三十人くらいは辞めてしまった。ふるいに掛けられ、残った筋金入りの演劇バカの仲間と芝居を追求できた。

 −プロとして成功することは大変…

 僕らは成功例となり(後輩たちに)夢を売った感じになった。学生演劇出身者は「三度揺れる」時期があると言われた。卒業、結婚、子どもが生まれた時…。プロとして続けるには公演の黒字、称賛の劇評、観客動員数のどれかは必要。観客は計一万人入れば何とかなる。しかし、これは高い壁ですが。

 −演劇を志す最近の若い世代をどう見ますか

 良く言えば賢く、悪く言えば熱量が少ない。僕らの上の世代は三十五歳まで頑張ってダメなら諦めた。僕らは三十歳、今は二十五歳だとか。世の中シビアになっているのでしょう。

−後輩に女性主宰のアンサンブルが登場した

 女性主宰者は時代の流れ。出るべくして出た。観客をたくさん呼べるか、プロになれるかよりも、とにかく一本一本の芝居を楽しくつくってほしいですね。

 

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