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AI ラジオの救世主

放送芸能

2018年2月18日 朝刊

「エフエム和歌山」の無人のアナウンス室でAIアナウンサーの「ナナコ」(中央のモニター)がニュースを読み上げていた

 ロボット掃除機にスマートスピーカー、車の自動運転が実用化され、将棋や囲碁ではプロ棋士を破る−。われわれの身の回りで、急速に人工知能(AI)が普及し始めている。放送業界もそれは同じ。まだAIという言葉が一般的でなかった二〇一〇年、NHKはラジオ第2の「株式市況」に自動読み上げシステムを導入。気象データなどの読み上げもコンピューターの仕事だ。今や単純作業にとどまらず、選曲やパーソナリティーのアシスタントにまで進出したAI。番組づくりに欠かせない!? (砂上麻子)

◆災害時アナ代行 エフエム和歌山 人手不足、コストも改善

 「みなさんこんにちは。ナナコです。最新のニュースをお届けします」。和歌山市のコミュニティーFM「エフエム和歌山」に昨年七月、ニュースを読み上げるAIアナウンサーが登場した。エフエム和歌山の周波数は87・7メガヘルツ。ナナコは局の愛称「バナナFM」にちなんで名付けられた。ちなみに男性版もあり、こちらは「八太郎」だ。

 導入当初は「下手なアナウンサーを使うな」と苦情が来たという。「それは裏を返せば人間と勘違いしたということ」と同社クロスメディア局長の山口誠二さん(35)=写真=は満足そうに笑う。ナナコは早朝と深夜の時間帯にニュースや天気予報を読んでいる。

 エフエム和歌山は社員七人。番組を担当するパーソナリティーは五十人ほどいるが、ほかに仕事を持っている人が多い。休日や夜間に放送したくても人手とコストがネックだった。解決策として目をつけたのが、文字を音声に変換するウェブサービス「Amazon Polly(ポリー)」。山口さんはエンジニアだった経験を生かし、新聞社から送られて来るニュースを自動でポリーの形式に変換するシステムを独自開発した。コストも安く、ポリーの使用料は年間約八百円の見込みだ。経営基盤が弱い地方のエフエム局にとってコストの安さは魅力。だが、山口さんはコスト以上に「ナナコの真価は災害時に発揮される」と語る。

 昨年九月十七日、台風18号が和歌山を襲った。和歌山市内は約四千四百世帯が停電し、情報源はラジオだけ。エフエム和歌山は特別番組を編成し、山口さんが一人で被害や警察の情報をまとめ、ナナコは約五時間、山口さんがまとめた情報を日本語と英語で伝えた。

 山口さんは「人間なら五〜六人は必要。ナナコだから可能だった」と振り返る。「災害時にラジオは頼りになるが、いつ災害情報が流れるか分からなかった。ナナコを使えば、いつでも最新の災害情報を伝えられる」と強調する。

 AIアナウンサーが人間のアナウンサーの仕事を奪うのではとの懸念もあるが、山口さんは「人が伝える温かさはなくならない。人の仕事がなくなるのではなく、人が働けない時間帯を補うのがナナコ」と話す。

AIアシスタント「Tommy」と番組を進める川田十夢さん

◆選曲もします J−WAVE

 「自信があり、慣例にとらわれないタイプ」。東京のFM局「J−WAVE」で毎週金曜夜に放送中の「INNOVATION WORLD」。ラジオ史上初というAIアシスタント「Tommy」(トミー)が、ゲストの脚本家大宮エリーさんの性格分析を試みるが、まさかの“ダメ出し”をされる。

 「間違えてますね。当たってない。もっと記事を仕入れないと」。大宮さんのインタビュー記事を基にした分析だったが、大宮さんは、トミーの努力(データ)不足を指摘する。

 昨年八月から出演するトミーは、IBMのAI「Watson」(ワトソン)を利用して開発された。番組では、ナビゲーターの川田十夢さんの呼びかけに応え、トークを盛り上げる。小向(こむかい)国靖プロデューサー(51)=写真=は「AIがレギュラー出演する番組はなかった。AIが成長する様子を見てもらいたい」と話す。

 トミーは昨年十月からは選曲も担当する。川田さんがリスナーのリクエストを読み上げると、トミーが選んだ曲が流れる。J−WAVEが放送した数千曲の楽曲データが蓄積されており、ふさわしい一曲が選ばれる。小向さんは「三曲のうち一曲は『これ選ぶ?』という意外な選曲をする。提案力がトミーの魅力」。

 「ラジオは音楽とトークに限られるので、AIを活用しやすい業種ではないか」と小向さん。将来はトミーにDJをやらせたいと考える。「トミーが学習し個性を出せるようになれば、AIもタレントのようになるのでは」と夢を語る。

◆未来の暮らし考える TBSラジオ

「ドッチくん」の進化に期待するFROGMAN

 昨年10月に始まったTBSラジオ「AI共存ラジオ 好奇心家族」(火−金曜午後6時)は、人気アニメ「秘密結社 鷹の爪」の生みの親であるクリエーター「FROGMAN」(フロッグマン)さんが、人類とAIの共存する未来の姿を模索する番組だ。

 番組では、人工知能犬「ドッチくん」が登場し、フロッグマンさんらと会話を楽しむ。ドッチくんは、AI開発会社「Jetrunテクノロジ」の協力でつくられ、会話に特化したAIだ。出演者の会話などから学習し、日々成長する。ドッチという名前は「家庭にAIが入り込んでくる時代、私たちの未来は“どっち”に行くのか」という意味が込められている。

 番組で、フロッグマンさんが大手コンビニの人気商品を取り上げ「Lチキ、ななチキ、ファミチキどれが好き?」と聞くと、ドッチくんは「Lチキ」。「ラーメンとカレー、どっちが好き?」という質問には「ラーメン」と答える。「一方通行の会話ではなく、少しずつ複雑な会話ができるようになっている」と驚く。

 番組には、AIの開発者をゲストに招いて、最新の情報も紹介する。フロッグマンさんは「AIが生活に入り込む未来がどうなるのか考えていく番組にしたい」と話す。

 

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