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ホールが育てる話芸 噺家は技量磨き、ファン堪能

放送芸能

2017年10月29日 朝刊

 落語や講談専門の寄席ではなく、市民会館や一般の劇場を借り上げる「ホール落語」の第1号とされる「三越落語会」が11月、通算600回の節目を迎える。十数人が交代で出演する寄席とは違い、お目当ての噺家(はなしか)をじっくり楽しめるとあって、人気の会はチケットがすぐに売り切れる。一方、噺家にとっても長尺の大ネタが披露でき、技量を磨く絶好の機会になっている。NHK番組と連動する後発の「東京落語会」も今月700回。ホールが噺家を育ててきた。 (神野栄子)

 三越落語会は一九五三年四月、東京・日本橋の三越劇場で始まった。第一回は五代目柳家小さんや六代目三遊亭円生といった名人が顔をそろえ、着飾った観客で約六百席の会場は大いに沸いた。当時を知る寄席文字書家で芸能史研究家の橘左近さん(83)は「老舗百貨店に見合った高級感があった」と振り返る。

 当時のプログラムは開催趣旨を「伝統ある落語を保存発展させるため」とうたう。演芸プロデューサーの安藤鶴夫さんや人気作家の久保田万太郎さんが人選し、第一線の噺家が数人ずつ出演した。

 三越の成功に触発されて都内ではその後、ホール落語会が続々と誕生。一般的に寄席での持ち時間が十五分ほどなのに対し、ホールでは三十分から一時間ほど許され「大ネタが味わえる」と落語ファンに認知された。

 来月八〜十日に開催される六百回記念の会には、春風亭昇太さん(57)、春風亭小朝さん(62)、立川志の輔さん(63)といったスターが名を連ねる。六十年余、通い続けた橘さんは「時代に合わせ、新作落語や若手も入れて工夫をしてきた。灯を守ったことに敬意を表したい」と話す。

 五九年スタートの「東京落語会」は会場を何度か変え、現在は虎ノ門のニッショーホール(七百四十二人)で開催。NHK・Eテレの「日本の話芸」の収録も兼ねており、開催頻度は三越よりも多い。今月の七百回記念の会では、三遊亭小遊三さん(70)、落語協会会長の柳亭市馬さん(55)らによる口上もあり、満席の会場は大盛況だった。

 四十回以上出演している小遊三さんは「お客さんがロビーに出ていっちゃって聴いてくれないこともあった」と明かす。落語に詳しく、厳しい観客が多いゆえの緊張感があるという。市馬さんは「全国放送もあるのでネタ選びにも特に神経を使う」と話す。

 ロック誌編集長で落語評論家の広瀬和生さん(57)は、全国各地のホールで開かれる落語会について、名人が出るかつてのホール落語というより中堅・若手も出る「寄席の発展系」と指摘。「地方では『笑点』などテレビでおなじみの噺家の方が客を集めやすいが、まだ無名だった春風亭一之輔さん(39)や柳家三三(さんざ)さん(43)は地方の落語会で実力をつけ、その後、テレビに出るようになった」という。

 落語ブームが追い風となり今や落語会は小さな飲食店でも開かれている。広瀬さんは「突出した名人が出なくなった分、落語会が身近になり、いろいろなタイプの噺家の個性を楽しむ時代。ますます盛んになるだろう」と予測する。

◆書院、銭湯、カレー店…会場多彩に

 変わり種の落語会も増えている。

 人気者の古今亭菊之丞さん(45)は2005年から年4回、東京・神楽坂の毘沙門天善国寺の書院で「毘沙門寄席」を開催。「お客さんと近く、実力をつけるには適している」と実感している。主催者も「演芸で活気があった昔の神楽坂が戻ってきた」と地域おこしに結びついていると喜ぶ。

 橘ノ円満(たちばなのえんまん)さん(53)は07年から東京・浅草橋の銭湯「弁天湯」の脱衣場で営業前に年4回、独演会を開いている。「応援団が増えた」と喜ぶ。さらに変わっているのは二つ目の立川志獅丸さん(41)。東京・北品川の「ロビンソンクルーソーカレーハウス」で月1回、客と一緒に激辛カレーを食べて、汗びっしょりでホットな落語を披露している。

◆寄席と両輪 呼ばれると自信

 「笑点」司会の春風亭昇太さんは落語会のチケットが手に入りにくい人気噺家の一人だ。ホール落語の心構えを聞いた。

−寄席との違いは?

 ホールは時間設定が緩やかで長い噺ができる。事前にネタ出し(告知)をすることが多く心の準備もできる。寄席は持ち時間が短く、当日のお客さまの様子を見てネタを決めるが、これも落語家の技術の一つ。ホールと寄席は両輪。どちらが欠けてもだめですね。

−ホール落語への思いを。

 ホール落語に呼ばれることは「選ばれた」ということ。自分の落語のレベルが実感できて、初めて出た時はうれしかった。

−ネタ下ろし(初演)はどんな機会にやりますか?

 自分の独演会。独演会は自分のお客さん(ファン)を何人呼び、いかに笑わせられるか。それで今の自分の力が判断できます。

−会場はどんなところで?

 小さいところから始めて力がついてきたら、大きなホールにしていけばいい。落語はフットワークのいい芸能で場所を選ばない。昔よりはるかに場所が増え、居酒屋、とんかつ屋も会場になる。そこで力をつけていくことが大切です。

−若手もホール落語に進出していますね。

 ホールに出始めるとつい気取って、大ネタをやる人がいる。自分に合ったネタをやるべきだ。お客さまに納得して帰っていただくことを心掛けてほしい。

 

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