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平成の政治改革は成功? 豊田洋一・論説委員が聞く

考える広場

2018年5月26日

 平成の時代も残り一年。昭和の終わりから平成にかけてのリクルート事件や東京佐川急便事件をきっかけに政治改革が行われ、大型疑獄事件は鳴りをひそめました。しかし、当初目指していた政党・政策本位の政治、政権交代可能な制度は実現したのでしょうか。京都大教授の建林正彦さんと考えます。

京都大教授・建林正彦さん

 豊田 平成の政治改革で衆院に小選挙区制が導入され、民主党(当時)への政権交代は実現しました。しかし、自民党の政権復帰後、野党勢力は衰退の道をたどり、「安倍一強」の状況が続いています。平成の政治改革をどう評価していますか?

 建林 政党・政策本位と政権交代可能な政党システムという二つの目標は両方とも意図した方向に変化してはいますが、いずれも完璧ではありません。政権交代可能なシステムというのは二大政党制のことですが、比例代表との並立制ですから、二大政党制が中途半端になるというのは最初から分かっていました。ほぼ予想通りです。

 豊田 現行制度になって二〇〇九年と一二年の二回の衆院選では政権交代が起きています。

 建林 要は比例代表で、どれくらいの有権者が戦略投票をするかが、二大政党制に向かうカギです。政権交代が人々のイメージの中にあれば、比例代表でも小選挙区と同じ政党に投票します。〇九年の政権交代選挙では確かに民主党か自民党かの二択の投票行動が比例代表でも起きました。しかし、自民党が政権復帰した一二年の選挙では、比例代表の票は自民、民主両党以外にも分散しました。

 豊田 自民党の政権復帰後に現れた世界は、非自民勢力はもう政権を取れないんじゃないかと見えてしまう状況です。

 建林 競争がないのは問題です。受け皿がないことはあまり想定されていなかったし、政権交代が難しいことに間違いないけれども、制度の特徴からいって逆転はあり得ます。

 豊田 政党・政策本位も道半ばとの評価です。

 建林 政党本位と政策本位は区別する必要があります。政党と議員個人のどちらが前面に出て争うかでは、政党本位になりました。望ましい方向です。ただ予想していたほど中選挙区制時代と劇的には変わっていません。政党の中心は衆院で、衆院が変われば政党本位になると思っていましたが、地方や参院の選挙制度は政党本位でなく、それが政党のコアのところにダメージを与えています。制度が大きく違う別のアリーナ(競技場)があったということです。

 豊田 衆院は一選挙区で一人を選ぶ小選挙区制が基本の制度ですが、参院や地方議員の選挙では、定数が一の選挙区もあれば複数のところもある。それが政党本位の実現を阻んでいるということですか。

 建林 定数の違う制度が混在する場合、同じ政党の候補者は選挙区ごとに異なる数のライバルに直面します。地域ごとに政策プログラムを微調整して戦う必要に迫られ、一貫した政策での全国展開は難しくなります。自民党の強さはその裏返しです。政策を強く出さず、個人の魅力で戦う限り、定数がいくつでも対応できるわけです。

 豊田 定数の違う選挙制度が混在することは、政党本位だけでなく、政策本位にも悪影響を与えていることになります。

 建林 政権交代が実現しても政策の選択肢がない競争になっていることは深刻です。シンクタンクにお金を出したり、政策の専門家を養成したりということをやってこなかった。政党単位で競争するときにお互いに政策を掲げなければ、やる意味がありません。

 豊田 英国を手本とした平成の政治改革は政治家同士の政策論争を想定していましたが、実際は批判合戦になっています。

 建林 野党は森友・加計学園の問題を追及すべきですが、政権交代したら政策があるのか、ほかにやることはないのかという批判も分かります。そもそも霞が関の官僚は、複数の政策案をつくり、国会議員に選んでもらう形になっていません。昔から政策提案型ではない。霞が関とその周辺に政策コミュニティーのようなものが存在し、複数の政策案を提起するという環境が必要だと思います。

 豊田 〇三年の衆院選から始まり、〇九年の政権交代で頂点に達したマニフェストは失敗の象徴になっています。野党再編も政策そっちのけで、好き嫌いで離合集散を重ねています。どういう政策の実現を目指すのかをはっきりさせないと、国民の支持は得られません。

 建林 おっしゃる通りです。もっとマニフェスト選挙を応援すべきでした。選挙ごとにマニフェストを求めるのは無理な要求でした。衆院選と参院選では競争ルールが違うから、齟齬(そご)が出るに決まっています。過重な負荷をかけて葬り去った、マスメディアにも責任があると思います。

 豊田 政党助成制度も政治改革の目玉でしたが、今では政党本部収入の八割から九割を政党助成金が占め、国営政党の状況です。政党本来の在り方ではありません。

 建林 政党は公共財だと思います。国民が政党を通じて選択するのですから、そこに税金が流れるのはおかしくない。問題は使い道です。選挙ではなく、政策立案に使わせるようなルールが必要だったかもしれません。使途も公開すべきです。出資者である国民に対しては当然、説明する義務があります。

 豊田 平成の政治改革で生じたひずみや問題点は、どう克服していけばいいのでしょう。

 建林 政党、政策本位を目標とするならば、参院の制度改革が一つの手段でしょう。日本のように、連邦制でないのに、異なる選挙制度をとる対等な二院制の国はそもそも世界でも珍しいですが、このような二院制は政党本位を乱します。憲法を改正するのなら、参院の力を弱めればよいと思います。力が弱まるのなら選挙制度は比例でも小選挙区でもいい。憲法を改正しないのなら選挙制度を衆院と同じにすれば、政党が異なる競争ルールに直面して弱体化するという状況はなくなるでしょう。

 豊田 参院には再考の府とか衆院の暴走を抑えるとか、果たしてきた役割があります。

 建林 衆院での再議決の要件を下げるなど、参院の権限を弱めるのであれば、専門家やいろいろな利益の代表を参院に入れて、衆院と違う形で議論すればいい。そうすれば再考の府としての存在価値は高まります。

 豊田 「一票の不平等」も解消には至っていません。

 建林 衆院に一票の格差があるのはまずいと思いますが、参院にまでなぜ厳格に求めるのか、私には分からない。投票価値の平等は憲法の「法の下の平等」から導くようですが、参院は定数一もあれば、二も三もあり、実は居住地ごとに異なる選挙制度が用いられています。それこそ法の下の平等に反するように思いますが。

 <たてばやし・まさひこ> 1965年、京都府生まれ。京都大法学部卒。同大大学院博士後期課程単位取得退学。同志社大教授などを経て京都大大学院法学研究科教授。専門は現代日本政治分析。著書に『政党政治の制度分析−マルチレベルの政治競争における政党組織』(千倉書房)など。

 

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