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成熟型のまちづくりとは? 井上純・論説委員が聞く

考える広場

2018年4月28日

諸富徹さん

 日本社会はこれから、今まで経験したことのない急激な人口減少に直面することになります。空き家、空きビルが目立つ廃虚のような街にするわけにはいきません。では、どうすればよいのか。人口減の危機を、逆に、住みよい都市を実現するチャンスだ、と説く京都大大学院経済学研究科の諸富徹教授と考えます。

◆「成長型」から転換を 京都大大学院経済学研究科教授・諸富徹さん

 井上 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が先月三十日に公表した「日本の地域別将来推計人口」によると、二〇四五年には、何と七割以上の市区町村で一五年に比べて人口が二割以上も減少する見通しとなっています。わずか三十年でこんなにも住民が減ってしまう。果たして地域社会は機能を維持できるのでしょうか。

 諸富 日本の都市は、経済成長、人口増加、地価上昇という右肩上がりの三点セットの中で成長してきました。つまり、その三点セットを前提にしたまちづくりの経験しかない。でも、これからは、その三点セットがすべて反転する中で都市を運営していかねばならないわけです。人口減がもたらすものは、空き家・空きビルの増加、税収減、財政悪化…。気のめいるような話ばかりです。人口密度が低下すれば、当然、社会基盤の維持に必要な一人当たりのコストは高くなる。まちづくりの仕組みと発想を変えない限り、未来は見通せないと思います。

 井上 人口が激しく減っていくことは随分前から分かっていたのに、将来像がうまく描けていません。政府は人口減少への処方箋として「地方創生」を掲げましたが、東京への一極集中は一向に止まる気配がありませんし、何やら減っていく人口の奪い合いをあおっているようにも見えてしまいます。

 諸富 人口減少から明るい未来を連想することは難しい。むしろ、脳裏にちらつくのは衰退という言葉ですよね。選挙に勝たねばならぬ首長や議員にとっては、人口減少を語って住民に夢を振りまくなど、到底できない相談でしょう。でも、見たくない現実からいつまでも目を背けたままでいいのか?

 井上 確かに、世のリーダーたちは「成長」という言葉にめっぽう弱い。だから、人口が減るなら生産性を向上させて国内総生産(GDP)を伸ばせ、というような議論に傾くばかりで本質論に向かわない。で、前提が変わっていくのに三点セット時代の発想から抜け出せない。

 諸富 人口減少は、実は、悪いことばかりではありません。振り返ってみれば、むしろ、急速な人口集中こそが戦後日本の都市問題の主要因ではなかったか。つまり、都市計画はあってなきがごとしで、経済活動の後押し、つまり農村から大量に流入する労働力を受け入れることが優先され、郊外へダラダラと広がっていくスプロール(虫食い)現象が進行した。住宅の狭さ、緑地比率の低さは、人々の居住空間を改善するための公的投資が常に後回しにされてきた結果です。逆に言えば、人口減少の本格化で、こうした欠陥をもたらしてきた人口増加圧力が緩む。つまり、都市生活の質向上に向けた空間的余裕が与えられることになる。これを、大きなチャンスと考えることはできないでしょうか。

 井上 人口減少を見据えた新たな都市計画としてコンパクトシティーという考え方がでてきました。国も中心市街地活性化法を制定するなどして実現を後押ししてきたが、なかなかうまくいきません。例えば一時期、日本のコンパクトシティー政策の旗手といわれた青森市も、今では失敗事例の典型扱いです。

 諸富 中心部の集客拠点とすべく巨費を投じて建設した商業施設が破綻してしまった。青森市は除雪コストが年間三十億〜四十億円に上り、このまま郊外への都市拡散を放置していては財政が圧迫され、存立が危ぶまれる。そこで商業・居住機能を街の中心部に誘導するコンパクト化にかじを切りました。こうした方向性は妥当で、その必要性は今も変わらないだけに、失敗の烙印(らくいん)を押されるのは残念なことです。ハコモノ中心の発想から抜け出せなかったことが行き詰まりの背景でしょう。

 井上 人口急増に追われるように広げられた日本の都市空間ですが、人口減少が本格化すれば、もう、大きな入れ物は必要ない。むしろ、今までの器の大きさが重荷になるはずです。一極集中が止まらぬ東京都でも、社人研の推計では、三〇〜三五年の間には減少に転じます。

 諸富 拡大しきった都市規模をそのまま維持すれば、いずれ減少していく税収で支えることができなくなるのは明らかです。人口増加圧力からの解放をチャンスとして生かすには、これまでスプロール化し、拡大してきた都市を戦略的に縮小させねばなりません。人口減少時代にふさわしい都市空間の再編に打って出る、いわば「成長型のまちづくり」から「成熟型のまちづくり」へ、仕組みと発想を切り替えることが必要です。

 井上 政策の方向性としてはコンパクトシティーを目指す以外にない。でも、それは、縮小の対象範囲に住む住民にとっては愉快な話ではありません。同じ納税者なのに、なぜ、中心部ばかりが潤うのか…。

 諸富 中心部への移住を強要するような手法は認めるわけにいきません。市民の自発的意思によりながら、経済活動と居住を時間をかけて特定区域に誘導すべく社会資本に投資する。考え方としては、つまり、外科手術ではなく漢方薬です。

 井上 人口が減っていくのに長期間の投資が求められる。耐えられるでしょうか。

 諸富 地域を豊かにする資金を自ら稼ぐ、あるいは、地域から流出していた資金を地元に循環させる仕組みをつくりたい。例えばドイツのシュタットベルケ(都市公社)が参考になります。自治体が出資する公益的事業体のことで、現在約九百のシュタットベルケが電力、ガス、熱供給といったエネルギー事業を中心に水道や公共交通など広範なインフラサービスを提供しています。電力事業は、いわばカネのなる木で、大企業に任せていたら域外に流出していく一方だった地域の所得が地元を循環し、赤字の公共サービスを支える財源も生む。さらに専門人材の雇用の受け皿となり、人材の流出も防いでいるのです。

 井上 都市をコンパクトに再編するには、変化を妨げる権利関係を解きほぐす工夫も要る。

 諸富 中心市街地のシャッター通りは地方では見慣れた光景となっていますが、コンパクトシティーの拠点として再生させるには、高松市の丸亀町商店街のような「所有と利用の分離」が参考になる。商店主全員の土地の利用権を所有権から切り離し、まちづくり会社に委ねることで、商店街全体の利益の最大化を図る。新たな仕組みを考え、既存の都市空間を生かし、だれもが住みたくなる街に再編する。結果的に、それは固定資産税の税収増につながり、その恩恵は自治体全域に及ぶ。対象地域以外の住民も納得できる投資ということになります。

 <もろとみ・とおる> 1968年、大阪府生まれ。京都大大学院経済学研究科博士後期課程修了。横浜国立大経済学部助教授などを経て現職。専門は環境経済学、地方財政論。主な著書に『人口減少時代の都市』(中公新書)、『環境税の理論と実際』(有斐閣)など。

 <地域別将来推計人口> 5年ごとの国勢調査を基に、国立社会保障・人口問題研究所が公表している。今回の推計では、総人口は2015〜45年で2000万人減少して1億600万人余に。15年の人口を100とした場合の45年人口を示す指数でみると、日本全体では83.7。人口減の著しい青森、岩手、秋田、山形、福島、高知の6県では70を割り込んだ。

 

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