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YouTuber(ユーチューバー)というオシゴト

考える広場

2017年12月2日

虫眼鏡さん

 「インスタントラーメンをおいしく食べる」「格好良く車に飛び乗る」−。自作の動画を投稿しまくる「ユーチューバー」が、若い世代を中心に大人気。「将来なりたい職業」にもランクインした。なぜ?

 <ユーチューバー> 米グーグル社が運営する動画サイト「ユーチューブ」に自作の動画を継続的に投稿する人たち。同社は「YouTubeクリエイター」とも呼んでいる。

 視聴されるごとに広告収入が入る。数百万回再生される人気動画なら、1本で数十万円稼げるという。中学生の「将来なりたい職業」で男子3位、女子10位に入った。

 内容が過激になったり、著作権で保護された動画を流用したりなどの事例が後を絶たない。

◆今一番面白いものを YouTubeクリエイター・虫眼鏡さん(東海オンエア)

 二〇一三年に活動を始めたころは、ユーチューバーという言葉も知られていませんでした。お金を稼いでやろうと始めたわけじゃなくて、僕たちがやっている悪ふざけをいろんな人に見てもらえたら面白いよね、みたいな気持ちで始めたんです。

 僕は途中で就職しました。小学校の教員です。仕事は楽しかったのですが、ユーチューブの方も稼げるようになり、どっちをやるか悩みました。それで思ったんです。教員は日本に何十万人もいる。その中の一人よりは、今、日本で食べていける人が百人もいないユーチューバーの方が人生面白いよなって。僕も男の子ですから(笑い)。

 安定した仕事を捨ててどうしてと思われるかもしれません。でも、僕は子どもたちがユーチューバーにあこがれるのは無理ないと思います。仲のいい友達とずっと一緒にいられて、ただただ遊ぶところを見せる。小中高校で友達とばかやった楽しい瞬間を皆、味わってきたと思うんですが、その延長。本当はみんないつまでも遊べたらいいと思っていたはずですよね。大人になって、できなくなったり、忘れたりしていくけど。悪ふざけができない大人の代わりに僕らがやっていると思っています。

 大事にしているのは、自分たちが面白いと思うものをやるということ。はやりに乗っからない。ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」をきっかけにダンスがはやりましたよね。ユーチューブでもはやったんですが、僕たちは「ぜってー(絶対)やらない」。全員ひねくれ者なんですよ。僕らのやっていることは、ある意味テレビ局。でも、たくさんの人を満遍なく笑わせるよりは、めちゃくちゃはまってくれる人だけ笑ってもらえればいいやと思っています。

 収入ですか? 生活に困らない程度には。でも、みんな一生これで食っていけるとは思っていません。ユーチューブでやっていけなくなっても、違う形でみんなで続けていくんじゃないかな。僕らには「解散」はないと思います。「将来はどうするの?」ということもよく聞かれますが、将来を考えていたら絶対この仕事をやっていない。目標もないんです。遊びに目標ってないじゃないですか。その場その場でこの六人で「今はこれが一番面白いでしょ」というものを続けていって、面白く死ねればいいな。

 (聞き手・大森雅弥)

 <むしめがね> 1992年、愛知県生まれ。東海オンエアは6人組で、同県岡崎市を中心に活躍。ユーチューブのチャンネル登録者数は245万人。昨年8月から岡崎観光伝道師を務める。

◆「楽しい」という錯覚 映画監督・風間志織さん

風間志織さん

 中学一年の息子は小学生の時、ユーチューバーになりたいと言っていました。仲の良かった子のお兄ちゃんが中一でユーチューバーになったのがきっかけ。見たら、タバスコやしょうゆを飲んでた(笑い)。中学生男子がバカなことをやっているなあと思っていたら、ユーチューバーはそういうものだと知ってびっくりしたんです。

 ユーチューバーたちは自分の動画を作品とは思っていないでしょうね。テレビのバラエティー番組の延長と思いました。今テレビはいろいろ規制されて窮屈。子どもたちにとって魅力がなくなっている。ユーチューブはその代わり。昔のテレビがやっていたむちゃなこと、PTAからいろいろ言われちゃうようなことをやってみようぜと。

 私が最初に映画を作ったのは高校時代。当時は現状が嫌でしょうがなくて、何もかも壊しちゃえって思っていました。主人公は優等生の女の子。ところが不治の病になってしまう。同時に超能力も持ってしまい、学校をむちゃくちゃにしてやろうと教祖さまになって学校を乗っ取る。教えはただ一つ「今を楽しむ」。規則を壊して、自分の楽しいことだけを学校でやろうという。その意味では今のユーチューバーの「ただただ楽しみたい」と、根っこは変わっていないのかもしれません。

 ただ、今の子は破壊的ではない。今は壊すのは格好悪いこと。だから「パーティーしようぜ、イエィ」になる。そういう意味では彼らは「良い子」ですね。今世の中は気持ち悪いぐらい善意にあふれています。表面的な。そういう気持ち悪さに、彼らは気づけていない。でも、みんなが良い人ですよという中で、もがいてはいる。

 ユーチューバーたちは多分、表現したいものがないのかもしれない。今の楽しさが続いていけばいいというだけ。でも本当は楽しくなくて、楽しいと思い込んでいるだけなんじゃないかなあ。それは自分に自信がないからかもしれませんね。

 映像表現の面でいうと、今は映像がお手軽に撮れてしまう。昔は簡単に撮れなかったから、いろいろ考える時間がありました。表現で一番大事なのは気持ちなんです。「どうしてもこれを撮らないと」と思えば自然に表現になるんですよ。そして、そういう気持ちを発酵させるには時間が必要なのです。

 (聞き手・大森雅弥)

 <かざま・しおり> 1966年、埼玉県生まれ。84年ぴあフィルムフェスティバル入賞。95年ロッテルダム国際映画祭で「冬の河童(かっぱ)」が最高のタイガーアワード。最新作は「チョコリエッタ」。

◆同じ目線で世界見る ジャーナリスト・佐々木俊尚さん

佐々木俊尚さん

 ユーチューブで注目を集めようと犯罪にまで手を染める人が出てきましたが、それほど驚くには当たりません。今は、承認欲求が異常に高まっている時代だからです。現実の社会で満足していれば、ネットの中で「認められたい」という欲望は、それほど大きくならないはずですから。

 昭和の頃までは、人生のレールは社会によってある程度敷かれていたので、ドロップアウトへの憧れがありました。今はレール自体がなくなり、自己承認の方法が見つけにくくなりました。人々がモヤモヤしているところに、一九九〇年代以降、インターネットという極めて自己表現しやすい新技術が出現しました。ユーチューバーの隆盛には、そんな社会的な背景があります。

 世界的に人気を集めるユーチューバーは、億単位の年収を稼ぎます。ネットの世界では理由が分からない爆発的な流行がたまに起きますが、トップユーチューバーになるのは、テレビで売れているお笑い芸人になるくらい難しいとみんな分かりはじめています。

 芸能人が会員制交流サイト(SNS)で私生活を発信するように、スター性より「いかに共感できるか」が重視されるようになりました。トップモデルよりも、読者モデル(読者の中から応募で選ばれる)がもてはやされ、偉人ではない、ただの人が書いた自己啓発本が売れる。人々はライフスタイルや雰囲気を求めており、人気のあるユーチューバーはそれに応えています。

 たとえば、ゲームをしているところを実況するだけの動画が人気となっています。完成度の高さより、「同じ目線で世界を見る」面白さがあるのでは。ユーチューブの世界でも今後、この「共感軸」の要素が高まると思います。

 そこにVR(バーチャルリアリティー)などの新たなテクノロジーが加わっていくでしょう。自分にとっての「リアル」を選べる時代がやってくるかもしれません。

 誰かがネットでつぶやいたことに、人工知能(AI)が応答したとする。でも、その人がAIを他者だと思えば、承認欲求は満たされます。そもそも承認欲求なんて永遠に満たされるものではないから、テクノロジーの力を借りて折り合いをつけるのもありでしょう。面白い時代になると思いますよ。

 (聞き手・出田阿生)

 <ささき・としなお> 1961年、兵庫県生まれ。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経てフリーに。テーマはITと社会の相互作用。著書に『キュレーションの時代』『レイヤー化する世界』など。

 

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