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移住女子−都会と地方

考える広場

2017年11月18日

鯨本あつこさん

 都会の女性の間に「移住女子」になる願望が高まっているという。東京一極集中は続き「家族はどうするの」「子育ては」「しきたりは大変よ」など課題も多い中、地方への夢はなぜ膨らんでいるのか。

 <移住女子> 都会から地方へ移り住んだ女性8人を描いた同名の本が売れ、「全国移住女子サミット」が開かれるなど、女性の地方願望は広がりつつある。

 サミット主催の「にいがたイナカレッジ」は2004年に起きた「新潟県中越地震」復興支援組織の一部門。「Uターン」から派生した「Iターン」による過疎地での定住を目指している。

 認定NPO法人ふるさと回帰支援センターによると、性別を問わない移住希望先の2016年上位5県は(1)山梨(2)長野(3)静岡(4)広島(5)福岡。

◆子育て、地域みんなで 離島経済新聞社編集長・鯨本あつこさん

 地域情報紙の編集やビジネス誌の広告ディレクターなどを経験した後、日本の有人離島の魅力を伝えるウェブメディア「離島経済新聞社」を二〇一〇年に始め、五年後、本社のある東京を離れ、同僚でもある夫の実家がある那覇市へ移住しました。

 拠点を移すことを決めたきっかけは、第一子を身ごもったことです。東京は子どもを連れて電車に乗るのにも気を使う。私たちは東京に実家がなく、子育てをサポートしてもらえる環境が十分ではなかった。子育ては自分一人でできるものではありません。一緒に子どものことを考えてくれる地域の大人が多い場所の方がいいと思いました。

 新聞社を始めたのは、知人が移住先に選んだ広島県・大崎上島へ遊びに行き、離島の魅力に取りつかれたからです。島では、地元でとれたタケノコや魚を皆で分け合う文化があり、私たちも隣のおじさんからミカンをもらいました。島にはたくさんの物はありませんが、都会暮らしで忘れてしまうような大切な価値観がありました。

 島の取材を重ねるうちに、移住への漠然とした憧れが生まれたのかもしれません。でも当時は、そうした島の魅力が伝わっておらず、仲間と共にメディアをつくろうと思ったのです。

 日本には約四百もの有人離島があり、多様な文化や自然、人と人が支え合う環境があります。島では、子どもは「宝物」という考えが根付いており、地域の人みんなで育てる文化があります。娘を連れて取材に行くと、取材先のお母さんが預かってくれたこともあります。

 沖縄で子育てをしていると、知らない人からも声が掛かります。娘の髪形や服装を見て「いいね」を意味する方言で「上等さー」と言ってくれる。人と人との距離感が近く、人間本来の温かさを感じています。

 家族が健康で仕事を続けていけるなら、仕事の拠点はどこでも構わないと思っています。取材や編集の仕事は、インターネットさえつながっていれば、リモートワーク(会社以外で働くこと)でどうにかなりますし、働き方を柔軟に考えることができました。

 現在は、第二子の出産に向けて、私の実家のある大分県日田市へ移住しました。都会のような便利さはありませんが、多くの人と関わりながら子どもに育ってほしいと思っています。

 (聞き手・竹谷直子)

 <いさもと・あつこ> 1982年、大分県生まれ。地方情報誌やビジネス誌、カルチャー誌のライターや編集者をした後、「離島経済新聞社」を設立。編集長として活動する。

◆あふれる生命力、魅力 メ〜テレ(名古屋テレビ放送)プロデューサー・松岡達矢さん

松岡達矢さん

 今年四月から六月にかけて、岐阜県にやって来た二人の移住女子を主人公にしたドラマ「岐阜にイジュー!」を放送しました。舞台になった白川町は、県内で一番人口減少が深刻な自治体ということでした。町長さんに話を聞くと、「今そこにある危機」という感じで「移住を促進して人口減少を何とかしないといけない」と真剣に語られて。一緒にチームとしてやりましょうという話になりました。

 町に何度も取材して、その魅力と悩みを拾いました。なぜ人口が減るかというと、高校がなくなって教育が町内で完結しないことがあります。働く場も町外に流れている。地元で生まれ育った人たちは「白川は好きだけど…」という感じで、ここで結婚して働いて住んでという未来像が描きづらい。どうしたらいいかと僕たちも考えるようになって。会社には内緒ですが、制作チームの目標は「視聴率ではなく移住率を上げよう」(笑い)。白川町のちょうちん番組でいいとなったんです。テレビと地方の新しい関係をつくりたいという思いもありました。

 受け入れ自治体に何が必要か。移住では、その町の人格みたいなものが外の人間に見えてしまう。白川町は林業が盛んで人の出入りがあったせいか、外の人に対してウエルカムでした。移住者が増えるかどうかは、危機感に加え外に対して開かれている気風が大切だと思います。

 ドラマを監督した森義隆さんが話していたんですが、地方はすごくエネルギーに満ちています。それに地元の方が気づいていない。白川の人は「こんな何もない所に」と言うんですね。自信がない。でも、白川では会う人会う人、みんな魅力的だったんですよ。ある猟師さんは「何でも買うやつは生きる能力がない」と言いました。高度資本主義の中に生きているわれわれにはない価値観を教えてもらった気がしました。

 都会に比べて街が死んでいると言う人もいますが、比較の基準が違うのでは。例えば、シカやイノシシが出たときに、僕ら都会の人間は狩りができない。でも地方にはそれができる人がいて、僕らには耐えられない状況でも生きていける力を持っている。移住する人たちは一周回って、地方で知った「生きていくことの難しさや強さ」に魅力を感じている。それは次につながっていく貴重な資源だと思います。

 (聞き手・大森雅弥)

 <まつおか・たつや> 1980年、愛知県生まれ。早稲田大卒。フリーランスの助監督や監督を経て、2014年にメ〜テレ入社。「まかない荘」シリーズなどのプロデュースや監督を務める。

◆共生社会のつなぎ役 明治大教授・小田切徳美さん

小田切徳美さん

 都市から地方への「田園回帰」傾向は、二〇〇〇年代初めから始まり、二段階に大きく伸びています。一つ目が、〇九年度に始まった総務省の制度「地域おこし協力隊」。初年度の参加者は八十九人でしたが、一六年度には約四千人がこの制度で各地から地方に移住しています。

 二つ目が、東日本大震災という惨事に若者たちが心を揺さぶられ、経済成長だけを追い求める社会に疑問を抱いたことです。東京の計画停電などを経験し、自分のライフスタイル、人生を見直したという人もいる。

 その中でも女性移住者の割合は増加していると思います。移住者全体の詳しい統計はありませんが、現在地域おこし協力隊が入り口になるケースが多く、隊員の約四割は女性なので、全体の割合とも大差はないと思います。今までは男性が単身で有機農業などを志して移住する場合が多かった。現在は家族での移住が増えている上、女性単身でも増えているのです。

 「田園回帰」には三つの局面があります。一つは人口移動、次に地元の人と共に地域づくりを担うこと、最後に地域の一員となり、移住者が都市と農村のつなぎ役となることです。後ろ二つで女性の活躍が目立っています。特に地域づくりの場面では、主役は若い女性というケースが多い。地域の中で担い手同士をつないだり、体験を求める都市の人と農山村をつないだりと、交流のコーディネーターの役割を担っているのです。

 今年二月に東京で移住女子をテーマにしたシンポジウムがありました。登壇した三人の移住女子が、いずれも自分の役割を地方と都市を「つなぐ」ことだと話していたのが印象的でした。産業や会社の縦割り組織に生きる男性と違い、女性は生活視点でその壁を越えてしまえるのです。あくまで仮説ですが、女性は「つなぐ」ことが得意分野なのかもしれません。

 今後日本の人口が減少する中で、農山村を切り捨て、都市に集中投資すべきだという考え方があります。しかし地方には災害時のバックアップや少子化への歯止めを担う可能性があり、私は都市と農村は相互補完的な存在であると捉える「都市・農村共生社会」という路線を支持します。そして、その実現には両者をつなぐ人材が必要です。「移住女子」は、未来の社会を考える中で、主役に発展する可能性があるのではないでしょうか。

 (聞き手・辻紗貴子)

 <おだぎり・とくみ> 1959年、神奈川県生まれ。東京大大学院修了(農学博士)。専門は農村政策論。主な著書は『農山村は消滅しない』『農山村再生』(いずれも岩波書店)など。

 

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