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技を知り自分を知る 日本の物づくり体験を本に 小栗左多里さん(漫画家)&トニー・ラズロさん

土曜訪問

2018年9月1日

作品を手にする漫画家の小栗左多里さん(左)と夫のトニー・ラズロさん

 『ダーリンは外国人』シリーズで知られる漫画家の小栗左多里(さおり)さんが、夫のトニー・ラズロさんとふるさと岐阜を訪ねて刀鍛冶や紙すき、陶芸など日本の伝統的な物づくりを体験。その様子をコミックエッセー『手に持って、行こう ダーリンの手仕事にっぽん』(ポプラ社)につづった。現在はベルリンで長男と三人で暮らしている夫妻に、帰国の際、同作について聞いた。

 小栗さんは、刃物の産地で知られる岐阜県関市の出身。「『ふるさとの本を描きませんか?』ってお話をいただいて、どうしたら皆さんに興味を持ってもらえるのか考えてたら、物づくりが盛んだなと思って。刃物も、包丁は全国シェアの半分以上だし、多治見などの器もシェアの六割。美濃和紙も昔は『戸籍は美濃和紙』と決まっていたぐらい普及していた。すごく身近にあるけど、多分気がついてもらえてない。描くことを通して『岐阜』を知ってもらえるかなと思ったんです」

 いつも帰国する夏の間に取材したという。いちばん大変だった作業は? 「やっぱり包丁づくりですね。『終わるかな…』と思いました。金づちで何回打っても、形が変わらなくて。頭でわかってても、いざ打つとかなり緊張する。何十秒かの間にワーッとやらなくてはいけないので」

 ちぐはぐなことを表す「とんちんかん」は、鍛冶の相づちの音がそろわないことから生まれた言葉。ほかにも「地団駄(じだんだ)を踏む」「切羽詰まる」など、刃物ができる過程で生まれた言葉も紹介した。「想像以上に多い。多分、物を作ってる現場がすごく生活と密着してて、すぐそばで見られて、これだけ言葉としてみんなの知るところになったんだろうなって思いましたね」

 体験をへて見えたものは−。「人は手ぶらでは生きていけなくて、物ってすごく大事。それを忘れがちだし使い捨てにもなっているけれど、思い入れをもって作り、直しながら使うのはすごくいいなと思いました。どういう物が好きでどういう作業に向いてるのか、自分自身のこともわかりました」。人とのつながりも実感した。「作る時も、できた物をあげる時や物が壊れた時にも人との関係が生まれる。物を買い、使って捨てる一方通行の流れじゃなく横の広がりができる」

『手に持って、行こう』の一場面(c)小栗左多里&トニー・ラズロ/ポプラ社

 トニーさんは、ハンガリー人の父とイタリア人の母の間に生まれて米国で育ち、多文化共生研究の非政府組織(NGO)を運営している。二人の日常などをつづった『ダーリンは外国人』シリーズは累計四百万部に。そこまで受けたのはなぜか。

 「彼のキャラクターが大きかったかな。投げて返ってくるボールが人と違う感じで面白いなと思って描いたんですけど『うちの家族もそうなんです』って共感してくださる方が、けっこういて。自分の家族をあらためて見つめるきっかけになったのかな、とも思います」

 その横で、トニーさんは「妻の才能だと思いますね」とサラリ。「ストーリーテラーですね。よく悩んで、出てくるまでは別室で待ってた方がいい時があります。悩んだ上で描く。時間かかりますね」。左多里さんも「だいぶ悩んでますよね」とうなずいた。今回もどうまとめるか考え抜き、着地点を見いだした時に「すごくホッとした」と話す。

 その創作は、ちゃんと見守ってくれている人がいる安心感に支えられている。二人の姿がそう語っている気がした。 (岩岡千景)

 

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