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新国立競技場 開く「屋根」がはらむ問題

ニュース

2014年6月4日

開閉式遮音装置(中央上)が開いた状態の新国立競技場の内部のイメージ図=日本スポーツ振興センターの基本設計案から

◆基本設計発表を受けて 森山高至

 先月二十八日、新国立競技場について事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、基本設計案が有識者会議で承認されたと発表した。JSCのホームページで閲覧可能なこの基本設計はいくつかの点で大きな問題をはらんでいることを指摘したい。

 ひとつは以前から問題視されている周辺環境への影響である。有識者会議で建築家の安藤忠雄氏が「バランスがいい」と評した最高高さ七十五メートルから七十メートルへの変更であるが、全体の規模からいって周辺への影響を緩和するものではない。平面形状は敷地に対しまったく余裕のない配置であることも変わっていない。その規模は現競技場の延べ床面積の四倍を超える点でも同じである。

 次に、最大の問題としてあげられるのが屋根の処理である。

 建築物には法的に「主要構造部」と定められる部位が存在する。それは「屋根、壁、柱、二階以上の床、梁(はり)、階段」である。この主要構造部は基本的に不燃でなければならない。それは災害時における人命にかかわるからだ。

 新国立競技場の計画においてもその前提は変わらないどころか、八万人収容を前提とする大規模施設であり、災害拠点施設としても位置付けるのだから、一般家屋以上の安全性が求められ、その基準もより厳しいものであるはずだ。

 しかしながら、新競技場の基本設計は建築物の災害時安全性と法体系の根幹を脅かすものとなっている。その問題とは、デザインの形状と屋根の開閉機能に関わる矛盾が原因である。

 新国立競技場の屋根に設けた楕円(だえん)の開口部は曲面を成し、屋根を開閉する際に単純な平行移動が不可能な構造になっている。そのため苦肉の策として、折り畳み式の「膜構造」の屋根を想定している。

 「膜構造」の屋根を持つ建築物とは、大規模なものでは東京ドーム、小規模なものではイベント時の簡易テントなどがそうだ。この屋根に用いられる膜材はA種、B種、C種、倉庫・テント用の四種に分けられるが、東京ドームのような大規模建築においては不燃性を持ったA種かB種を採用する以外にない。ところがこのA種、B種は膜材の芯に燃えないガラス繊維を編み込んであるために折り曲げることができない。そのため今回の基本設計では屋根にC種を採用せざるを得ない状況となっている。

 C種は店舗の軒先やテントで用いられる折り曲げ可能な膜でありその素材はポリ塩化ビニール等。十年程度で劣化し不燃性はなく災害時には燃焼する。つまり、今回のような大規模建築物の屋根には使用してはならないものなのである。

 大規模施設、災害拠点施設としては不適切どころか「屋根としては」建築基準法違反となってしまう。そのため、まったく屋根でありながら「開閉式遮音装置」という呼称をつけた。これは詐称ではないか。

 さらには問題なのは、C種は軟らかい膜でしかないため、「遮音装置」を名乗りながら、遮音性能など無きに等しい。基本設計案には遮音性能は一五〜二〇デシベル(dB)と記されているが、これは一般的なコンサートに相当する一〇〇デシベルを交通量の多い道路に近い八〇デシベル程度にしかカットできないという意味だ。通常四〇デシベルカット以上の能力がないものを遮音装置と呼ぶべきではない。

 そのような重大な問題をはらみながら、その点をまったく指摘せず、さらには承認したという有識者会議の唯一の建築専門家、安藤忠雄氏には猛省を促したい。有識者会議は今すぐにその承認を撤回するべきである。

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 もりやま・たかし=建築エコノミストとして、公共施設のコンサルティングや日本の建築制度への批評を行っている。

 

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