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逃げない?逃げられない

私説・論説室から

2018年7月23日

 もう三十年近くも前だが、西部劇の舞台をバスツアーで巡ったことがある。どこまでも続く大平原をバスが走っているとき、ガイドがそこで起きた洪水の話をした。

 「洪水が引いた後、二階建ての家の一階で、年配の女性が受話器を握り締めて亡くなっているのが見つかった。調べたら、何度も警察に電話していた。警察には電話が殺到し、つながらなかったようだ。電話をあきらめ、二階に逃げれば助かったのに」

 「恐怖に駆られると、人間って普段できる行動ができないことがある」という説明が、なぜか、心に引っ掛かっていた。

 西日本豪雨で気がついた。女性は逃げなかったのではない。二階に上がることができなかったのではないか、と。

 今回の豪雨災害では、死者が二百人を超えた。避難が遅れた、と言っているだけでは、犠牲者は減らない。一人一人について「なぜ、亡くなったのか」を知りたい。

 自力で避難できない人がいるのなら、助ける仕組みを考えたい。「自助」も「公助」も無理なら、近所の人が助け合う「近助」も一つの方法だ。避難しようと声をかけ、連れて行く。声をかけた方も早めの避難につながる。何事もなければ、笑顔で帰ればよい。

 避難所はバリアフリーにし、ケアできるスタッフを準備したい。次に備えなければ、亡くなった人たちに申し訳ない。 (井上能行)

 

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