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イヴェット・ギルベール

私説・論説室から

2018年4月4日

 何年か前、骨董(こっとう)品店で竹久夢二に似たタッチの墨絵の美人画を見つけて、つい買ってしまった。

 値段からして直筆ではなく、版画だろうけれど景色はまずまず−と居間で眺めて悦に入っていたら、美術に詳しい娘がルーペを持ち出してきて「これ印刷だよ」。

 えっ。確かに拡大して見ると新聞写真と同じで点、点、点。どこまでも点の集まり。版画どころかただの印刷の複製か。あのオヤジの「お目が高い」にしてやられた。

 世の中はデジタル全盛。多くの事務職が人工知能(AI)に奪われ、デジタルに強くなるための職業訓練が不可欠になると言われる。アナログ人間には相当の圧力だ。

 でも学生時代の物理の授業を思い出してみる。かつては自然界はすべて粒子でできていると考えられていたが、素粒子となると粒子と波動の両方の性質を備えている。これはつまりデジタルとアナログではないか。計数が苦手だからといって悲観することはない。アナログの直感はこれからも大いに役立つはずだし、点の集まりも眺めて十分に楽しめる。

 ところでわが家の自慢の品は十九世紀末、パリの歓楽街で活躍した画家ロートレックのモデルだった女性歌手イヴェット・ギルベール自筆の手紙。神田の古本屋で見つけた。便箋の折りしわも筆致もいい。でも、もしかしたら…。        (安田英昭)

 

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