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週のはじめに考える 会社はだれのものか

社説

2018年9月2日

 会社はだれのものか。古くから問われているテーマです。経営者親子の対立の果てに苦境に陥った大塚家具のケースを通じ、改めて自問しました。

 二〇〇二年、家族で大塚家具に行きました。子どもの勉強机を購入するためです。後日、販売担当の女性から小学四年の息子に「大事に使ってね」と書かれた手紙が来ました。息子は大喜びでした。きめ細かい接客は同社の真骨頂でした。だが、六年後の〇八年以降、リーマン・ショックの影響で経営は悪化の道をたどります。

◆実の親子対立の果てに

 前社長である父大塚勝久氏と、娘大塚久美子氏(現社長)の対立は、〇九年、娘が社長になってから激化していきます。一五年の株主総会で決定的な争いに発展し、いったん社長に返り咲いた時期もあった勝久氏は社を追われます。同社は従業員千五百人弱と決して巨大企業ではありません。だが、実の親子の争いは大きな話題となり、会社のブランドイメージを傷つけました。

 父の時代、同社は会員制をもうけ高級化路線を歩みました。丁寧な接客もその一環。娘は父の路線を変更します。会員制をやめ客がより自由に商品を見られるようにします。ライバルでもあり経営が好調なニトリを参考にした戦略といわれています。

 しかし今年八月中旬発表した中間決算では本業のもうけを示す営業損益が三十五億円の赤字となりました。中間決算としては三年連続の赤字です。他社からの支援など再建策が取り沙汰されていますが道筋はついていません。

 同社は家具をつくり売っています。良い家具は家に溶け込みます。家の雰囲気を演出し、そこに住む個人や家族の生き方、趣向を反映します。その家具を創業家の家族同士が争いを続けている企業が販売している構図です。経営がうまくいくはずがありません。

 今回の経営難で最も影響を受けたのは従業員たちです。勝久氏が立ち上げた「匠大塚」に移った人もいるし、社を完全に離れた人もいます。親子対立の果てに多くの従業員の人生は変わったのです。

◆利益は社会貢献の結果

 「妻の両親や兄弟を自分の家族同様に大切にするような感覚で接していました」。これは大手銀行の元頭取が、合併先の従業員と共に仕事をしていく際のコツとして述べた言葉です。この銀行の合併は成功例として挙げられます。合併先の従業員さえ大事にするのですから後は推して知るべしです。

 会社はだれのものでしょうか。経済の世界では「資金を出した株主のもの」といわれます。しかし、かつて日本では「従業員のもの」という意識が強かったのも事実です。国内では二〇〇〇年代中頃から企業に四半期ベースの業績決算開示を求める動きが加速します。米国型経営の影響です。それ以降、日本の多くの経営者が短期間の利益を追求するようになりました。株主をより強く意識するようになったからです。この頃を境に会社は「従業員のもの」から「株主のもの」へと大きく振り子が動いたように思います。

 「企業の目的は顧客の創造である」。経営学の巨人といわれるピーター・ドラッカー(〇五年死去)の言葉です。ウィーン生まれのドラッカーは米国に移り住み、大企業を対象に企業とは何かを研究しました。彼に影響を受けた日本の経営者は多いはずです。

 前述の言葉にはさまざまな解釈が可能かもしれませんが、社会の変化に応じて商品サービスを生み出し、それが新たな顧客を生み出すことにつながるとの考え方に共感します。その結果、企業は社会に貢献し利益を得るという構図です。社会貢献をしない企業には利益もなく、経済的にもはじかれていくのです。さらに社会の中で企業は、人々の生活の未来をも創造する存在だと主張していると考えます。だが大塚家具の経営者親子はそれぞれが「自分のやり方の方が利益が上がる」と対立を続けました。社会貢献の結果としての利益ではなく利益そのものが目的になってしまったようにみえます。株主を気にするあまり会社を「わがもの」と勘違いしたのでしょうか。

◆「従業員」への回帰

 八月、久美子社長を支援していたとされる米投資ファンドが大塚家具株を売却したことが判明。株主の一部が会社を見捨てた形です。こうした動きを見るにつけ、今こそ難局と向き合う仲間が必要なのではと感じます。会社は英語でカンパニーで仲間という意味もあります。父娘が和解しかつての仲間たちも戻れば、ブランド修復の第一歩にはなります。今回のケースが「株主」の側に行き過ぎた日本の会社の立ち位置を、「従業員」の方に揺り戻すきっかけとなるのではと期待しています。

 

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